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売り場では火花を散らすビール4社が、高速道路の上では「同じトラック」に相乗りしている理由。荷台の上半分に積まれていた「空気」の正体

ビール4社の共同輸送を解説する記事のサムネイル

売り場では激しく競い合うビール4社が、高速道路では同じトラックに相乗りしている。荷台の半分を占めていた「空気」という当たり前から、その理由を読み解く。

Chapter
高速道路を走るトラックは、半分以上「空気」を運んでいる
ビールを積むと「上が空き」、カップ麺を積むと「重さが余る」
90センチ×110センチの「青い板」から始まった30年越しの休戦協定
北海道の列車から始まった「4社混載」と、ビールの上にカップ麺が乗る日
「どこで戦い、どこで手を組むか」という境目
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2026年10月1日、スーパーやコンビニのお酒売り場で、小さな地殻変動が起きた。

6年間にわたって段階的に進められてきた酒税法の改正が最終段階を迎え、ビール、発泡酒、いわゆる「第3のビール(新ジャンル)」の3つに分かれていた税金が、350ミリリットル缶あたり54.25円に一本化されたのだ。ビールは値下げになり、発泡酒や新ジャンルは値上げになる。この日に合わせて、アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの大手4社は主力商品の味やパッケージを刷新し、新ジャンルを「ビール」へと生まれ変わらせ、テレビCMや店頭のポップで激しいシェア争いを繰り広げている。

買い物カゴを手に冷蔵ケースの前に立つと、そこは1パーセントの占有率をめぐってしのぎを削る戦場に見える。赤いラベルと金色のラベル、黒い星と青いロゴ。それぞれがまったく別の工場から、別の会社のトラックに乗って、誇り高くこの棚までやってきたのだと、私たちは何の疑いもなく思っている。

だが、スーパーの裏口に回る1台のトラックの扉を開けてみると、その前提はあっさりと覆る。

売り場ではライバルとして火花を散らしている4社のビールが、そこに来るまでの道中では、同じ倉庫に集まり、同じプラスチックの板の上に乗り、同じ1台のトラックや貨物列車のコンテナに肩を並べて揺られてきているのだ。しかも最近では、ビールのすぐ上の空間に、まったく別の会社のカップ麺やシリアルまでが同乗していることすらある。

なぜ、これほど激しく競い合うライバルたちが、道路の上では仲良く相乗りしているのか。その背景をたどっていくと、日本の道路を走るトラックがずっと抱えてきた「荷台の半分が空気だった」という奇妙な構造と、それを解くための知恵が見えてくる。

高速道路を走るトラックは、半分以上「空気」を運んでいる

高速道路を走っていると、追い越し車線のすぐ隣を、巨大な箱を背負った大型トラックが何台も連なって走っていく。外から見ればアルミの扉が固く閉ざされているため、あの箱の中には荷物が天井までぎっしり詰まっているように見える。

ところが、国土交通省が公表している『自動車輸送統計月報』(2026年2月分・営業用普通トラック)の数字を見ると、意外な実態が浮かび上がる。日本のトラックの「積載効率」は、わずか40.04パーセントにとどまっているのだ。

この40パーセントという数字は、2つの掛け算からできている。

ひとつは、トラックが走った全距離のうち、実際に荷物を積んで走っていた距離の割合を示す「実車率」で、これが62.77パーセント。つまり、道路を走っているトラックの約37パーセントは、荷物を届けたあとの「空っぽの帰り道」などを走っている。

もうひとつは、荷物を積んで走っているときに、そのトラックが積める最大重量の何割を使えているかを示す割合で、これが約63.79パーセントだ。両方とも6割強だから、掛け合わせると「0.6277 × 0.6379 = 約0.40」、つまり40パーセントになる。

裏を返せば、私たちが普段見かけているトラックの輸送力の約6割は、荷物ではなく「空気」を運んでいる計算になる。

もちろん、わざとスカスカで走らせているわけではない。ここには、車という道具の物理的なルールが立ちはだかっている。その象徴が、ビールをはじめとする「飲み物」と、お菓子や日用品のような「軽いもの」の対比だ。

ビールを積むと「上が空き」、カップ麺を積むと「重さが余る」

10トントラックの荷台に、缶ビールや業務用のビール樽を積んでいく場面を想像してみてほしい。

中身が液体であるビールは、とにかく重い。フォークリフトを使って、パレットと呼ばれる荷役用の台に乗せたビールのケースを荷台の床に並べていくと、まだ荷台の高さの半分にも達していないのに、道路交通法などで定められた「最大積載重量(約10トン)」の上限にぶつかってしまう。

これ以上積めば過積載で法律違反になるし、ブレーキの効きやタイヤへの負担も危険な領域に入る。だから、荷台の上半分にはぽっかりと巨大な空間が空いているのに、トラックは扉を閉めて出発するしかない。重さは満杯なのに、見た目は半分が「空気」のまま走るのだ。

荷台の上半分に空間が残るトラック

では、逆にカップ麺やポテトチップス、シリアル、あるいはトイレットペーパーや紙おむつを積むとどうなるか。

これらは中身に空気をたくさん含んでいて、とても軽い。荷台の床から天井すれすれまで、隙間なく段ボール箱を積み上げても、今度は重さが数トンにしかならない。10トン積めるエンジンの力と頑丈な車体を持ちながら、重さの面では半分以上の余力を残したまま走ることになる。

物流の現場では、前者を「重量勝ち」、後者を「容積勝ち」と呼ぶ。

日本の道路では長いあいだ、「重すぎて上半分に空気を積んだビールのトラック」と、「軽すぎて重さの余力を余らせたお菓子のトラック」が、同じ高速道路を別々に走っていた。しかも、それぞれが目的地で荷物を降ろしたあとは、空っぽの荷台に空気だけを積んで帰ってくる。

ドライバーの数が足りていた時代なら、それでも「うちの会社の荷物は、うちのトラックで運ぶ」という自前主義で押し通せたかもしれない。しかし、働き方改革に伴う残業規制や高齢化によって、2030年度には営業用トラックのドライバーが約36パーセント不足するとも推計されている。空気を運ぶために貴重な運転手と燃料を使う余裕は、どこの会社にもなくなった。

そこで生まれたのが、「だったら、ライバル同士で同じ車に乗ればいい」「重い荷物の上に、軽い荷物を乗せればいい」という発想の転換だった。

90センチ×110センチの「青い板」から始まった30年越しの休戦協定

じつはビール業界は、他のどの業界よりも早く「運ぶところでは戦わない」というルールを作ってきた。その出発点になったのは、トラックそのものではなく、荷物の下に敷く1枚のプラスチックの板だった。

スーパーのバックヤードや酒屋の軒先で、ビールのケースが何段も積まれた青いプラスチック製の台を見たことがある人も多いだろう。あれは「ビール9型プラスチックパレット」、通称「Pパレ」と呼ばれている。サイズは縦900ミリ、横1100ミリ。ビールのケースや段ボールがぴったり収まる寸法だ。

かつては、ビール会社ごとに自分の会社のパレットを使い、配達に行ったトラックは「自分の会社のパレットだけ」をより分けて回収していた。卸売会社の倉庫ではメーカーごとに空のパレットを仕分けして積み上げる手間がかかり、トラックの運転手は荷降ろし場の前でパレットの選別のために何十分も待たされていた。

「中身のビールでは勝負しても、下に敷く板のサイズや所有権で張り合っていても誰も得をしない」

そう気づいたアサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの4社は、今から30年以上前の1992年、このPパレを共同で使い、回収するときもどこのメーカーのパレットかを選別せずに持ち帰る仕組みを始めた。どの会社のビールも同じサイズの板に乗り、空になった板は4社共通のインフラとしてぐるぐる回るようになったのだ。

2013年には、ビール4社が共同で初めてとなる法人「一般社団法人Pパレ共同使用会」を設立した。現在ではビール4社だけでなく、日本酒や焼酎、清涼飲料のメーカーなど130社以上がこの枠組みに参加しており、年間に延べ4,200万枚以上、1日あたり平均で約10万枚ものPパレが日本中の道路を行き交っている。

2019年からはさらに一歩進み、空になったパレットの回収そのものも分担するようになった。「Aという卸売会社からはキリンが4社分をまとめて回収する」「Bという会社からはアサヒが4社分を集める」といった具合に代表の会社を決め、4台のトラックが別々に空パレットを取りに行っていたのを1台に減らしたのだ。これにより、4社合計で年間の二酸化炭素排出量を約47パーセント(約4,778トン)削減できる計算になった。

板のサイズがそろえば、次に起きることはひとつしかない。その板ごと、同じトラックや列車に積み込むことだ。

ビール4社が共同利用するパレットと共同配送

北海道の列車から始まった「4社混載」と、ビールの上にカップ麺が乗る日

2017年9月、北海道の札幌と道東(釧路・根室地区)を結ぶルートで、ビール4社にとって歴史的な共同配送が始まった。

札幌から釧路や根室までは200キロから300キロ以上も離れている。大都市なら1社のビールだけで10トントラックを満杯にできるが、広い北海道の地方都市向けでは、1社だけではトラック1台分に満たない日がある。かといって注文がある以上、半分空いたトラックでも走らせなければならない。

そこで4社は、札幌市近郊にあるそれぞれの工場や倉庫から、JR札幌貨物ターミナル駅構内の倉庫に商品を持ち寄ることにした。そこで届け先ごとに4社のビールを仕分けし、同じ鉄道コンテナや大型トラックに「相乗り」させて道東へと送り出したのである。

結果はどうだったか。それまで平均61パーセントだった車両の積載率は一気に85パーセントへと跳ね上がり、長距離トラックの運行は年間で約800台も減った。同じ年には関西・中国エリアと九州を結ぶルートでも4社共同の鉄道輸送への切り替え(モーダルシフト)が始まり、ライバル同士の相乗りは全国へと広がっていった。

そして今、この相乗りは「同じ業界のライバル」という枠すら飛び越え始めている。先ほどの「重いビール」と「軽い食品」のパズルを、別々の会社同士で組み合わせる取り組みだ。

たとえば2022年、サッポロビールと日清食品は、静岡県焼津市にある両社の工場から大阪へ向かうルートで共同輸送を始めた。

サッポロの重いビール樽などをトラックの下半分に積むと、重量の上限が近づいて上半分が空く。そこに、同じ焼津市で作られた日清食品の軽い即席麺を組み合わせる。さらに大阪で荷物を降ろした帰りの便(復路)では、サッポロの空になった樽や容器と、日清食品の空パレットを一緒に積んで静岡へ戻る。行きも帰りも空っぽの時間をゼロにする「ラウンド輸送」によって、使うトラックの台数は約20パーセント減った。

2025年10月には、群馬県と宮城県を結ぶルートで、伊藤園と日清シスコがタッグを組んだ。

重くて荷台に1段しか積めない伊藤園のお茶や飲料を床面に並べ、ぽっかり空いた2段目の空間に、日清シスコの軽いシリアルを積み込む「重軽混載」だ。しかも、トラックが2カ所の工場を回って積み込み時間が長くなるのを防ぐため、あらかじめ日清シスコのシリアルを伊藤園の出荷倉庫へ運んでおき、1カ所で一気に上下2段の積み込みを終える工夫まで凝らされている。

今年(2026年)の4月には改正物流効率化法が全面施行され、年間9万トン以上の荷物を扱う大手の荷主企業には、役員クラスの「物流統括管理者(CLO)」を置くことや、トラック1回あたりの積載量を増やす計画を作ることが義務づけられた。10月16日にはさらなる施行令の改正も閣議決定され、11月からはトラックの中継輸送への支援なども本格化する。「空気を運ばないための相乗り」は、もはや一部の熱心な企業の工夫ではなく、日本中の企業が知恵を絞るゲームのルールになったのだ。

「どこで戦い、どこで手を組むか」という境目

ビール業界の人たちは、こうした取り組みを語るときによく「競争と協調」という言葉を使う。

ビールの味、香り、泡のきめ細かさ、缶のデザイン、そして店頭での売り方。そこは一歩も譲らない「競争」の領域だ。なぜなら、お客さんがお金を払って選んでいるのは、その味やブランドだからである。

一方で、パレットのサイズ、倉庫での待ち時間、高速道路を走るトラックの荷台の空間。ここは「協調」の領域だ。なぜなら、自分の会社のビールが「アサヒ専用のトラックで来たか、キリンと相乗りで来たか」によって、グラスに注いだビールの味が変わることは絶対にないからだ。

考えてみれば、これはトラックや物流だけの話ではない。

仕事でも暮らしでも、人手や時間、お金に余裕があった時代には、すべてを自分たちだけで抱え込み、「他所とは違うやり方」を通すことが美徳とされがちだった。申請書の書式ひとつ、社内のシステムひとつとっても、「うちはうちのやり方がある」と自前で作り込み、見えない裏側の作業で消耗していく。

だが、本当に守るべき「自分の看板(味)」と、他人と共通化して相乗りしたほうがずっと楽になる「土台(パレットや荷台)」は、本来まったく別のものだ。どこで意地を張り、どこで見栄を捨てるか。その境目を冷静に引き直した業界から、人手不足の時代を軽やかに生き抜いている。

今夜、スーパーの棚から値下げになったお気に入りのビールを1本取り、ついでに朝食用にシリアルの袋をカゴに入れるとき、少しだけ想像してみてほしい。

売り場では遠く離れた棚に並び、激しい宣伝合戦のなかにいるその2つが、昨日の深夜、どこかの高速道路を走る1台のトラックの荷台で、下と上に重なり合って静かに揺られていたかもしれないことを。私たちが当たり前のように手に取る日常は、見えざる裏側でライバルたちが結んだ、とても合理的で少し温かな「休戦協定」の上に乗っている。

参照元: 財務省「酒税に関する資料(酒税改正・平成29年度改正について)」、国税庁「発泡性酒類の段階的な税率変更に係る品目及び税率適用区分の表示方法の手引き」、国土交通省「自動車輸送統計月報(2026年2月分)」、国土交通省「物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)関連報道発表資料(2026年10月16日)」、一般社団法人Pパレ共同使用会 公開資料、アサヒビール・キリンビール・サッポロビール・サントリービール共同発表(2017年・2019年)、サッポロビール・日清食品共同発表(2022年)、伊藤園・日清シスコ共同発表(2025年)

車選びドットコムマガジン編集部

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