ビルの駐車場はガラガラなのに、なぜ前の道には宅配トラックとバイクがあふれるのか。昭和32年の法律が作った「停められない街」の正体
建物の駐車場は空き区画だらけなのに、前の道路は停めたい車であふれている。その原因は昭和32年の駐車場法が決めた「乗用車専用」の附置義務にあった。2026年の法改正が解こうとしている、街のルールのねじれを追う。
- Chapter
- 駐車場の数は「来る車の数」ではなく「床の広さ」で決まっていた
- マンションは法律上「外から車が来ない場所」だった
- 「駐車場」にも「駐輪場」にも入れてもらえない乗り物
- 「余っている場所」を「足りない場所」へ振り替える
駅前の大通りやマンションが並ぶ通りを歩いていると、少し不思議な光景に出くわすことがある。
建物のすぐ前の車道には、ハザードランプを点滅させた宅配便のトラックが停まり、運転手が台車を押してエントランスへ走っていく。その少し先では、中型バイクや少し大きめのスクーターに乗った人が、停める場所を探して同じブロックを何周も回っている。路上はどこも「停めたい車」でいっぱいだ。
ところが、そのすぐ脇にあるビルやマンションの敷地をのぞき込むと、まったく逆の景色が広がっている。地下駐車場へ続くスロープは静まり返り、立体駐車場のパレットは何段も空いたままで、フェンスには「月極駐車場・空きあり」の看板がいつまでも下がっている。
建物の外では「10分だけ停める場所」すらなくて車が路上にあふれているのに、建物の内側では「車1台分の立派な区画」がいくつも余っている。
もし建物のオーナーやマンションの管理組合が、「うちの駐車場は余っているから、空いている3台分をバイク用や宅配トラックの荷さばき用に変えよう」と思えば、明日にでも解決しそうな話に見える。だが、現実にはそれがずっとできなかった。オーナーの気が利かないからでも、街に土地がないからでもない。
建物のなかに「乗用車用の駐車場」をいくつ作るかを機械的に決め、一度作ったら別の用途や別の乗り物へ簡単には変えさせない仕組みが、昭和32年(1957年)にできた法律のなかに組み込まれていたからだ。
そして2026年、およそ70年続いてきたその「駐車場の作り方」が、ようやく大きく書き換えられようとしている。
駐車場の数は「来る車の数」ではなく「床の広さ」で決まっていた
そもそも、デパートやオフィスビル、大きなマンションにある駐車場の台数は、どうやって決まっているのだろうか。
多くの人は、建物を建てる会社が「このビルには毎日これくらいの人が車で来るだろう」「このマンションなら何割くらいの世帯が車を持つだろう」と予想して、ちょうどいい台数を設計していると思っている。
もちろん郊外のショッピングモールならそういう計算も働く。だが、都市部の駅近くや商業地では、まったく別のルールが先に動く。駐車場法という法律に基づく「附置義務(ふちぎむ)制度」だ。
仕組みはシンプルで、かつ強制的である。自治体が指定した地域で、一定の広さを超える建物を新築・増築するときは、建物の「延べ床面積」に応じて計算された台数以上の駐車場を、建物や敷地の中に必ず作らなければならない。たとえば商業ビルやオフィスなら「床面積何平方メートルにつき乗用車1台分」といった具合に、自治体の条例で厳密な割り算の式が決まっている。この台数を満たさなければ、そもそも建物を建てることができない。
この仕組みの土台にある駐車場法ができたのは、昭和32年(1957年)のことだ。高度経済成長の入り口で、街に自家用車や社用車が爆発的に増えはじめた時代である。新しいビルが建つたびに外から乗用車が押し寄せ、道路が路上駐車で埋まってしまう。ならば「建物を大きくするなら、そのぶん自分の敷地で車を受け止めなさい」と義務づけた。当時としては、きわめて理にかなった都市のルールだった。
国土交通省が2024年8月に全国の自治体を対象に行った調査(回答1,274自治体)によれば、駐車場法に基づく附置義務条例を定めている自治体は166団体、駐車場法に基づかない独自の要綱などで同様の義務を課している自治体も544団体にのぼる。日本の都市に立つ大きな建物の足元に、あれほど几帳面に駐車場が備えつけられてきたのは、この割り算があったからである。
ただ、時代が変わると、この割り算が思わぬ副作用を生みはじめる。
駅の近くに住む人が車を持たなくなり、企業の営業車も減って、ビルの駐車場がガラガラになっても、「床面積から計算された乗用車の台数」は条例で縛られている。空いているからといって勝手に区画を潰したり、機械式駐車場を撤去して数を減らしたりすれば、条例違反になってしまうのだ。こうして街のなかに、「誰も停めないのに、法律上減らすことができない乗用車用の空き区画」が静かに積み上がっていった。
マンションは法律上「外から車が来ない場所」だった
空き区画が余っている一方で、なぜマンションの前の道路には宅配便のトラックがあふれるのか。ここにも、法律が前提としていた「昔の暮らし」とのズレがある。
実を言うと、百貨店やオフィスビルについては、かなり前から「荷さばき用の駐車スペース」を作ることが求められてきた。国が自治体向けのひな形として示している「標準駐車場条例」に、トラックなどが荷物を積み降ろしするための駐車施設の規定が加わったのは平成6年(1994年)のことだ。
ところが、そこに「共同住宅」、つまりマンションは含まれていなかった。
理由は、当時の法律の分類を見ればわかる。駐車場法施行令では、外からたくさんの車を呼び寄せる建物を「特定用途」と呼び、劇場、百貨店、店舗、事務所、倉庫などをそこに並べていた。お店やオフィスには、客や取引先や配送業者の車が外からやってくる。だから荷さばき用のスペースも要る、という理屈だ。
これに対して、マンションは長らく「非特定用途」に分類されていた。住宅というのは、そこに住んでいる人が自分の車を置いておく「車庫」の需要が中心であって、外から不特定多数の車がひっきりなしにやってくる場所ではない、とみなされていたのである。
昭和や平成の初めなら、たしかにそうだったかもしれない。だが、ネット通販が暮らしのインフラになったいま、マンションは「毎日何十便もの配送車両が外からやってくる場所」へと完全に姿を変えた。しかも近年のタワーマンションや大型マンションは、高層化して戸数が増えただけでなく、セキュリティのために何重ものオートロックが設けられている。配達員が車を停め、台車に荷物を積み、防災センターで手続きをして高層階まで往復するあいだ、トラックはどこかで待っていなければならない。
それなのに、建物の側には「居住者のマイカー用」の駐車場ばかりが義務づけられ、外から来る配送車のための区画は1台分も義務づけられていなかった。居住者の駐車場は空きがあるのに、セキュリティゲートの内側にあるため宅配車は入れず、建物の前の道路にハザードランプの列ができる。路上駐車のトラックは、マナーの問題というより、建物のルールが「通販のない時代」のまま止まっていたことの帰結だった。
このねじれを直すため、国は駐車場法施行令を改正し、2026年4月1日から共同住宅を正式に「特定用途」へ追加した。あわせて改正された国の標準駐車場条例では、たとえば50戸以上のマンションを新築する際、おおむね100戸あたり1台といった基準で「荷さばき駐車施設」の設置を義務づける仕組みが盛り込まれている。さらに、背の高い配送バンが増えたことに合わせて、荷さばきスペースの天井(梁下)の高さ基準も、従来の3.0メートルから3.2メートルへと引き上げられた。マンションはようやく、法律のうえでも「外から荷物が届く場所」として認められたのである。
「駐車場」にも「駐輪場」にも入れてもらえない乗り物
配送トラック以上に長いあいだ、法律と法律のすき間に落ち込んでいた乗り物がある。バイク(自動二輪車)だ。
2026年9月14日、東京・霞が関の中央合同庁舎で、国土交通省、警察庁、経済産業省の担当課長らが集まる第4回「市街地における自動二輪車等の駐車スペース確保に係る関係省庁連絡会議」が開かれた。2025年5月に立ち上げられたこの会議では、東京都の特別区や政令指定都市、駐車場業界へのヒアリングを重ねながら、「どうすれば街のなかにバイクを停める場所を作れるか」が議論されている。
バイクに乗らない人からすれば、「なぜいまさら、3つの省庁が集まってそんな会議をしているのか」と不思議に思うだろう。街にはこれだけコインパーキングも駐輪場もあるではないか、と。
だが、いざ排気量50ccを超えるバイク(自動二輪車)で街へ出てみると、奇妙な「門前払い」の連続にぶつかる。
まず、駅前にある自治体の「駐輪場(自転車等駐車場)」へ行ってみる。すると入り口の看板に「ご利用は自転車および50cc以下の原付まで」と書かれていることが多い。なぜか。駅前の駐輪場整備の根拠になっている「自転車法(自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律・昭和55年制定)」が、対象となる「自転車等」を自転車と50cc以下の原動機付自転車だけに限定してきたからだ。51cc以上のバイクは、駐輪場から見れば「あなたは自動車だから、ここには入れません」と断られる。
それならと、すぐ隣にある時間貸しのコインパーキングやビルの「駐車場」へ向かう。四輪の乗用車と同じ料金を払うつもりで入ろうとすると、今度は利用約款の看板に「自動二輪車・原動機付自転車は駐車できません」と書かれている。
駐輪場に行けば「大きすぎる(自動車だ)」と断られ、駐車場に行けば「四輪ではない(二輪車だ)」と断られる。では路上に5分だけ停めればどうなるか。道路交通法のうえでは、自動二輪車はれっきとした「自動車」なので、即座に放置駐車違反の対象になる。
なぜ、こんな理不尽な宙づりが起きたのか。原因をたどると、やはり昭和32年の駐車場法に行き着く。
驚くべきことに、昭和32年に制定された駐車場法は、その第2条で駐車場の対象となる「自動車」を定義するにあたり、カッコ書きで「二輪のものを除く」と明記していたのである。
つまり、取り締まりを行う道路交通法ではバイクを「自動車」と呼びながら、停める場所を作るための駐車場法では「バイクは自動車ではない」と除外し、駐輪場を作る自転車法では「50cc超のバイクは自転車等ではない」と除外していた。日本の法律は、なんと平成18年(2006年)に駐車場法が改正されるまでの49年間、自動二輪車を「どの法律も駐車場を作る義務を負わない乗り物」として放置していたのだ。
2006年6月に民間の駐車監視員による取り締まりが始まり、街なかでバイクの違反切符が急増したことで、国は同年、大慌てで駐車場法から「二輪のものを除く」という文言を削除した。これでようやく、自治体も新築ビルに対してバイク駐車場の設置(附置義務)を課せるようになった。
ところが、49年間の空白は簡単には埋まらない。国土交通省の資料(2025年5月「自動二輪車等駐車場の現状等について」)によれば、2006年の法改正から20年近くが経っても、駐車場法に基づく附置義務条例で自動二輪車を義務づけている自治体は、全国でわずか11団体にとどまっている。乗用車の附置義務が166団体(独自要綱を含めれば700団体超)あるのと比べれば、桁がひとつ違う。
しかも民間のコインパーキングには、機械の壁もある。地面からせり上がるロック板や車両センサーは、1トンを超える四輪車の鉄の塊とタイヤ幅を前提に設計されており、車体が細く軽い二輪車ではセンサーが反応しなかったり、ロック板で車体が倒れたりする恐れがある。近年増えたロック板のないカメラ式駐車場でさえ、車の「前のナンバープレート」を読み取る設計になっている場所では、後ろにしかナンバーがないバイクは認識できない。法律と機械の両方が、「四輪の車」と「自転車」という二択だけで街を作ってきた結果、その中間にいた乗り物の居場所が街から消えてしまったのである。
さらに2025年4月からは、排ガス規制で生産を終える50cc原付の代わりとして、125cc以下の車体に出力制限(4.0キロワット以下)をかけた「新基準原付」という区分が加わった。新基準原付は法律上「原付」なので駐輪場に入れる対象になるが、車体の大きさや重さは従来の100cc〜125ccクラスの小型バイク(自動二輪車)とほぼ同じだ。同じ大きさのスクーターなのに、ナンバーの区分が違うだけで片方は駐輪場に入れ、もう片方は入れない。あるいは、法律上は入れても駐輪場の狭いラックにタイヤが収まらない。そんな現場の混乱も、国が省庁横断の会議を急ぐ背景にある。
「余っている場所」を「足りない場所」へ振り替える
こうして並べてみると、いま街の足元で起きていることの輪郭がはっきりと浮かび上がってくる。
日本の街に、車を停めるための面積そのものが足りないわけではない。むしろ建物の内側には、昭和32年以来の計算式によって作られた「四輪の乗用車用」のスペースが、使いきれないほど眠っている場所がたくさんある。ただ、そのスペースに貼られた「乗用車専用」という法的なラベルが剥がせなかったために、外で場所を探している宅配トラックやバイクが中に入れなかっただけなのだ。
だからこそ、国土交通省が改正した標準駐車場条例(2025年3月通知)や「まちづくりにおける駐車場政策のあり方検討会」のガイドライン(2025年5月公表)では、新築マンションへの荷さばきスペース義務化と並んで、もうひとつ重要な仕組みが盛り込まれた。
すでにある建物のなかで余っている乗用車用の附置義務駐車場を、バイク(自動二輪車)や荷さばき用など、いま街で足りていない車種用のスペースへと柔軟に変えられるようにする「振替(ふりかえ)規定」である。四輪車1台分の区画があれば、そこをバイク数台分の区画に塗り替えても、条例上の義務を果たしたものと認める。2026年9月の関係省庁連絡会議でも、自治体や商業施設に対してこうした転用や受け入れをどう広げるかが大きなテーマになっている。
私たちは普段、道路に停まっている配送トラックや、停める場所を探してうろつくバイクを見ると、つい「運転している人のモラル」や「都会の狭さ」の問題だと思ってしまう。
けれど、建物の壁を一枚隔てた向こう側に目を向ければ、そこには「乗用車と自転車」という二つの箱しか用意しなかった古い制度の跡地が、ぽっかりと空いたまま並んでいる。
電動キックボードや新基準原付、シニアカー、小さな配送モビリティなど、歩くことと四輪自動車のあいだを埋める乗り物は、これからさらに増えていく。「走るためのルール」はニュースになっても、「止まるための場所」は、古い条例が書き換わらないかぎり街には生まれない。いつも通るマンションの前のハザードランプや、駐車場の隅に書かれた小さな「二輪車不可」の文字は、街のルールが暮らしの変化に追いつこうともがいている、いま現在の境目を映している。
参照元: 国土交通省 報道発表資料「市街地の自動二輪車等の駐車スペース確保について議論します」(2026年9月10日)・同「標準駐車場条例を改正」(2025年3月28日)・「自動二輪車等駐車場の現状等について」(2025年5月)・「まちづくりにおける駐車場政策のあり方検討会 とりまとめ」(2025年5月)・駐車場法施行令改正の規制の事前評価書(2024年12月)・e-Gov法令検索(駐車場法、道路交通法、自転車法)・一般社団法人日本自動車工業会 調査報告書













