【プロ解説】所有欲や優越感も満たしてくれる進化したGRヤリスは普段使いにも対応できる?

GR2020年9月から販売を開始したハイパフォーマンスコンパクトカーのトヨタ GRヤリス。
ベースのヤリスは150.1〜269.4万円という新車価格、それに対しGRヤリスはモータスポーツベース車両が349万円〜、快適装備が施された市販バーションになると265〜533万円とほぼ倍の価格設定になっています。
この差は、どこから生まれているのでしょうか?
- Chapter
- カスタマー向けGRヤリスのホモロゲーションモデル
- 専用プラットフォームを使うGRヤリスは、ヤリスであってヤリスじゃない
- 実戦経験をもとに進化した2024年GRヤリス
- 1,618ccターボエンジンは戦闘力をアップ
- スパルタンな印象になったコクピット
カスタマー向けGRヤリスのホモロゲーションモデル

トヨタ GRヤリスは、WRC(世界ラリー選手権)で勝ち抜くために生まれたホモロゲーションモデルです。
ホモロゲーションモデルというのは、FIAの統括するモータースポーツにおいて、参加資格を得るために生産される車両のことで、ざっくり解説するとGRヤリスはツーリングカー(グループA)規定の“連続する12ヶ月の期間中に少なくとも2,500台の同一規格車両が生産されている”、“ファミリー(同一プラットフォーム)で2万5000台(こちらはRSで申請)が生産されている”という条件に合致させています。
このホモロゲーション取得によって生まれた車両が、プライベーター(ラリーカスタマー)のために開発されたGRヤリス ラリー2です。
トップカテゴリーであるRally1のひとつ下に位置するRally2カテゴリーにエントリーできるGRヤリス ラリー2によって、トヨタはモータースポーツの裾野を広げることを考えています。
ちなみにワークスチームが争うRally1カテゴリーは、市販車のモノコックまたはパイプフレームをベースに車両製作が可能で、ホモロゲーションを取得する必要もありません。
GRヤリス ラリー2は、おもに世界ラリー選手権(WRC)のほか、世界の各地域で開催される地域選手権などの国際大会に挑戦するプライベーターが使用。
日本国内では、WRCで活躍する勝田貴元選手のお父さんの勝田範彦選手が全日本ラリーで走らせています。
専用プラットフォームを使うGRヤリスは、ヤリスであってヤリスじゃない

トヨタ GRヤリスは、WRCに学び、そしてWRCで勝つためTMR(Tommi Makinen Racing)ともに、いちから開発したTOYOTA GAZOO Racing(トヨタガズーレーシング)のオリジナルモデルです。
プラットフォームは、市販ヤリスのGA-Bに対し、GA-BとGA-Cをドッキングさせたスポーツ4WD用プラットフォームを用いています。
また日本市場で展開されているヤリスは5ドアハッチバックのみですが、GRヤリスは欧州市場で販売される3ドアハッチバックがベースです。
ボディは、構造用接着剤の使用箇所の拡大をはじめ、スポット溶接の打点の距離を短くして約200点の増し打ち。
さらにホイールハウスやピラー、バックドア開口部まわりに専用の骨格構造を採用することで結合剛性を高め、優れたねじり剛性を確保しました。
いっぽうでエンジンフードや左右ドア、バックドアにアルミ素材、ルーフに新工法で製造されたC-SMC(炭素繊維強化シート成形複合材料)を採用して、大幅な軽量化と低重心化を実現しています。
実戦経験をもとに進化した2024年GRヤリス
試乗したのは、2024年4月に販売が開始された進化型の6速MT車です。
ボディサイズは、全長3,995mm×全幅1,805mm×全高1,455mmと従来モデルから変わっていませんが、外観はモータースポーツ現場の声を反映して変更されました。
フロントのロアグリルには、薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを採用。バンパーロアサイドには分割構造を採用することで、石などの飛来物による損傷があった場合でも修復・交換作業を容易にできるうえ、コストの低減も視野に入っています。
またサイドロアグリルは形状を拡大することで、冷却性能を向上。バンパーサイドのアウトレットが、サブラジエターおよびATFクーラーの熱を効果的に排出します。
リアは一文字につながるテールランプとし、上下リアランプ類を集約するとともに、ハイマウントストップランプをスポイラーと分けることでリアスポイラーのカスタマイズ性を拡張。
ロアガーニッシュ下端に開口部を設け、床下の空気を抜くことで空気抵抗を下げると同時に操縦安定性を向上。マフラーの熱も排出します。
進化したGRヤリスは外観デザインだけでなく、シャシーとボディもよりハードな走行に耐えられるように強化されています。
ボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更して、走行中のアライメント変化を抑制。
さらに構造用接着剤の塗布部位を約24%、スポット溶接打点数を約13%それぞれ拡大することにより、ボディ剛性を高めて操縦安定性と乗り心地を向上させています。
1,618ccターボエンジンは戦闘力をアップ

Rally2規定に合致させるために排気量1,618ccとされた直列3気筒インタークーラーターボエンジンは、モータースポーツでの戦闘力アップを目指して、発生回転数をほぼ変えることなく最高出力を200kW(272PS)から224kW(304PS)へ、最大トルクを370Nmから400Nmへ、それぞれアップしています。
トランスミッションは6速MTにくわえて、8速ATのGR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)が追加されたことがトピックです。
この8速ATは、ラリー参戦やスーパー耐久シリーズなど実戦を通じて開発され、速さと信頼性を実現しています。
AT制御ソフトウエアをスポーツ用に最適化したのをはじめ、AT内部の変速用クラッチに高耐熱摩擦材を採用することで、世界トップレベルの変速スピードを実現。8速へと多段化したことで、クロスレシオ化し、パワーバンドを活かした走りを可能としています。
走行モードは、従来の「4WDモードセレクト」に加えて、スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立する「ドライブモードセレクト」を標準装備。
ユーザーの好みや参戦するモータースポーツの特性に合わせて、電動パワーステアリング、エアコンそしてパワートレインの設定を可能として、スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立しています。
さらにGPSによる位置判定によりサーキットなどの利用可能エリアに入ると作動する「サーキットモード」も設定。
このモードでは、アンチラグ制御、スピードリミッター上限速度、クーリングファン出力の変更ほか、シフトタイミングインジケーターをメーターに表示して、サーキット走行をよりファンなものにします。
スパルタンな印象になったコクピット
レース参戦車を参考にデザインされたコクピットは、センタークラスターとインストルメントパネルが一体になりました。
そのうえでディスプレイおよび操作パネルをドライバー側へ15度傾け、上端を50mm下げることで、操作性の向上と前方視界アップを図っています。
メインのメーターは、12.3インチフルカラーTFT液晶ディスプレイで、スポーツ走行に必要な車両情報をドライバーに伝えます。
またドライビングポジションは25mmダウンするとともに、ステアリング位置の調整、シストレバーの高さなどを見直し、ドライビング姿勢と操作性を改善させました。

新旧GRヤリスを乗り比べて感じたのは、正常進化以上の進化ぶりです。もはや新型と言っても過言ではないでしょう。
搭載する1.6L直3ターボエンジンは、高速道路やワインディングでの加速の際のフィーリングが違います。その差は最高出力で23kW(32PS)、最大トルクは30Nmというものですが、数値以上にダイレクト感が高まっている印象です。

ステアリングフィールは、従来型ではステアリングセンターに無駄な遊びがあり、段差を乗り越えたときなどはステアリングが動いていましたが、進化型はステアリングの遊びも少なく、段差を乗り越えた際でもステアリングはビクとも動きません。
また進化型はリアのタイヤの接地感を強く感じられるので、ドライバーはコーナリング中も安心感を感じることができます。
乗り心地は、従来型が段差を乗り越えた際に揺れが残るのですが、進化型は非常に収束が早いので安定感が高いです。
ドライビングポジションの変更は、正確なステアリング操作にくわえ、疲労度にも影響しているようです。

インストルメントパネルやリアコンビネーションランプが市販ヤリスと同じだった従来型は、市販車ベースのチューニングカーという雰囲気でした。
しかし専用のインストルメントパネルやリアコンビネーションランプが採用された進化型は、GRの公道を走れるレーシングカー的になって特別感も向上。優越感や所有欲も満たしてくれるでしょう。