【プロ解説】燃料電池車に進化したミドルクラスSUVのホンダ CR-Vを試乗インプレッション

ホンダのミドルクラスSUVであるCR-Vが6代目に進化して、プラグイン機能を備えた燃料電池車=e:FCEVとして帰ってきました。
世のなかに増えつつあるPHEVとの違いは、メインの動力源を燃料電池システムとしていること。
気になる乗り味と使い勝手を、自動車ジャーナリストの萩原文博さんが解説します
外部からバッテリーに充電できるCR-V e:FCEV

ホンダ CR-V e:FCEVは、外部からバッテリーに充電できるプラグイン機能をあわせもった燃料電池車です。
パワートレイン構成は、フロントに最高出力92.2kW(125PS)の燃料電池(FC)スタックをふくむ燃料電池システムと、最高出力130kW(177PS)、最大トルク310Nmを発生する駆動用モーター+ギアボックス。
室内の床下に、17.7kWhのリチウムイオンバッテリー、DC-DCコンバーター、バッテリー制御用ECUで構成されたIPU(インテリジェントパワーユニット)。
水素タンクは、リアシート下(53L)とラゲッジルーム(56L)に分けて搭載されます。
水素による発電と充電バッテリーからの電力を有効に使うため「エネルギーマネージメントモード」を備え、ドライバーは、運転状況や移動の用途に合わせて最適なモードを選ぶことができます。
基本の「AUTO」モードは、運転の状況に応じてFC電力とバッテリー電力を適切にコントロールしながら、航続距離を最大化できるよう車両が自動で制御。
その他、充電した電力を優先して使用するとともに、プラグインでバッテリーが満充電のときに優先される「EV」、水素発電による走行を優先して、万がいちの水素切れや外部給電に備えることができる「SAVE」、水素ステーションまでの移動中にFC電力でバッテリーを満充電にすることで、水素充填後の航続可能距離を最大化できる「CHARGE」という3つのモードを選ぶことができます。
水素満充填時の走行可能距離は、バッテリーによるEV走行可能距離約61kmとあわせて約621kmと公表されています。
つねにモーター駆動だから静かでパワフル

今回の試乗は、都内を中心に約200kmを走行しました。
車両重量2,010kgと同じクラスのガソリンエンジン車に比べるとかなり重いCR-V e:FCEVですが、市街地ではモーター駆動独特の力強い加速で車重を微塵も感じさせません。
静粛性も高く、モーター駆動による恩恵は、走り出しから非常に大きいと感じました。
乗り心地は、バッテリーやIPU、水素タンクといった重量物がバランス良く配置されているおかげで、無駄な動きの少ないフラットなものとなっています。
コーナリング時の車両の傾きも少なく、段差を乗り越えたときなどの路面からの入力のいなし方も非常に上手で、高級車に乗っているような感覚です。
それでいてステアリングフィールは、スポーツSUVのZR-Vに匹敵するシャープな印象です。

バッテリー残量が少なくなり、電力の供給源が燃料電池スタックに切り替わっても、高い静粛性そしてモーターによる力強い加速は変わりない印象です。
既存のプラグインハイブリッド(PHEV)と違い、メインのパワートレインが燃料電池システムに置き換えられたことで、つねに高い静粛性が確保されているのがCR-V e:FCEVの魅力のひとつです。
災害時に役立つ給電機能

もうひとつの魅力は、災害時やアウトドアシーンで外部電源として活用できることです。
フロントフェンダーの普通充電/AC給電口に標準装備のコネクター(Honda Power Supply Connector)を接続することで、AC100V(1,500W対応)電力を取り出すことができます。
またラゲッジルーム内にはDC給電口を設け、別売のPower Exporter(パワーエクスポーター)を接続すれば、最大で一般家庭の約4日分の電力を取り出すことが可能です。
その際に、室内のHonda CONNECT対応ナビディスプレイで、あらかじめ残量を設定しておけば、水素を使い切り走行不能になるという状況を避けることができます。
水素価格は今後に期待

ひと通り試乗を終え、Honda CONNECTディスプレイの「水素ステーション検索機能」を使って、近くの水素ステーションを探してみると、都内には想像以上に水素ステーションがあることに驚きました。
この「水素ステーション検索機能」は、稼働状況をリアルタイムで表示するほか、各ステーションからのお知らせや充填圧などの詳細情報も表示する便利機能です。
水素の充填は、リアフェンダー部の充填口(70MPa規格対応)から行うわけですが、2本の水素タンクに充填する時間はわずか3分程度とガソリンと同等の使い勝手を実現しています。
今回ステーションで充填された水素は1.51kgで、アッと言う間に完了。約200kmのうち50kmほどをEVで走行しているので、水素では約150km(水素1kgで100km)を走行したことになります。
当日の水素価格は1kg=1,500円でしたので、満充填で2,491円(消費税込み)の支払いは、ガソリンに比べて割高です。
とはいえ、日本政府は2030年に1kgあたり334円(30円/N㎥)、2050年には223円(20円/N㎥)以下にまでコストを引き下げることを目標しているそうなので、数年後にはリーズナブルでサスティナブルな燃料になるでしょう。