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日本一の「優良運転者」は、実は一度もハンドルを握らない人かもしれない。ゴールド免許という制度が静かに抱えた矛盾

ゴールド免許とペーパードライバー(記事サムネイル)

運転をしない人ほど、ゴールド免許は静かに手に入れやすい。4人に3人が「優良運転者」という日本で、金色のカードは本当に何を証明しているのか、調査データから解きほぐす。

Chapter
「無事故無違反」の中身を開けてみると
「免許を持っている」と「運転できる」は、別のことだった
14年ぶりにハンドルを握る人たち
あなたの財布のなかのカードは、どちらの顔をしているか
ゴールド免許とペーパードライバー(記事サムネイル)

日本でいちばん安全運転をしている人は、実は一度もハンドルを握っていない人かもしれない。無事故無違反の証であるはずのゴールド免許は、運転をしない人ほど静かに手に入れやすい。そういう奇妙な構造が、あの金色の帯には隠れている。

財布のなかに運転免許証を入れている人は多い。身分を証明するとき、いちばん手っ取り早いカードだからだ。病院の受付でも、携帯電話の契約でも、お酒を買うときでも、あれを出せばたいていの用は足りる。その免許証が金色の帯なら、ちょっとした誇りがある人もいるだろう。過去5年間、無事故・無違反を通した「優良運転者」に交付される証だ。更新も安く、早く済む。保険料も優遇される。運転がうまくて、安全意識が高い人の勲章。そう思っている人は多い。

ところが、この「優良運転者」という言葉を素直に信じると、最初に書いた奇妙なことが見えてくる。事故も違反も、運転しなければ起こしようがないのだ。

「無事故無違反」の中身を開けてみると

ゴールド免許の帯(本文上部)

三井住友海上火災保険が2023年に行った調査に、はっとさせられる数字がある。運転免許を持っている人のうち、76.0%がゴールド免許の保有者だった。4人に3人が「優良運転者」ということになる。

ここまでは、日本人は運転がうまいのだな、という話で終わりそうだ。問題はその先だ。同じ調査で、ゴールド免許を持っている人のうち、およそ3人に1人が「自分はペーパードライバーだ」と自覚していた。免許は金色、でも運転はしていない。そういう人が、優良運転者のなかに静かにまぎれこんでいる。

考えてみれば当たり前の話でもある。車庫から一度も車を出さなければ、5年間の無事故・無違反はほぼ自動的に達成される。「運転がうまいから違反しない人」と「そもそも運転しないから違反できない人」が、同じ金色の帯で表彰されている。制度のうえでは、この二人を見分けるすべがない。

同じ調査では、ペーパードライバーの73.3%が「3年以上運転していない」と答え、半数以上が「10年以上運転していない」と答えた。運転への自信を100点満点で聞くと、ペーパードライバーの平均はわずか25.4点。かつてペーパードライバーだった人が運転を再開すると平均60.4点まで上がるので、その差はおよそ35点ある。金色のカードを持ちながら、本人は「自分は運転できない」とはっきり感じている。この落差が、ゴールド免許という言葉の内側に隠れている。

「免許を持っている」と「運転できる」は、別のことだった

ここで一度、私たちが無意識に等号で結んでいた二つの言葉を切り離してみたい。「免許を持っている」ことと、「運転できる」ことだ。

多くの人は、この二つを同じものだと思っている。免許は運転できることの証明書なのだから、持っていれば運転できる。筋は通っている。けれど現実には、免許は「ある時点で技能試験に通った」という過去の記録でしかない。取得したあと運転をやめても、免許は失効しない。更新を続けるかぎり、金色のまま財布のなかに残る。能力ではなく、手続きがカードを生かしている。

日本の運転免許保有者は、2024年末でおよそ8,174万人にのぼる(内閣府の交通安全白書による)。16歳以上の多くが持っている計算だ。これは世界的に見てもかなり高い水準だが、「持っている人が多い」ことと「運転している人が多い」ことは、実は違う話だった。免許の枚数は、道を走る車の多さを必ずしも意味しない。

なぜ日本で、運転しないのに免許を持つ人がこれだけ増えるのか。理由のひとつは、免許が運転のためだけの資格ではなくなっているからだ。パーク24が会員に取得理由を聞いた調査では、「取得するのが当たり前だと思っていた」が最多で、「運転したかったから」とほぼ並んだ。一方で、一定の割合の人が「身分証明書として使うため」と答えている。とくに若い世代ほど、その割合は上がる。顔写真つきで、住所も生年月日も載っていて、全国どこでも通用する公的なカード。日本では、これに代わるものが長いこと存在しなかった。だから人は、運転するためというより「社会で自分を証明するため」に免許を取り、取ったあとは運転しないまま持ち続ける。

免許が身分証として優秀すぎたせいで、「運転する資格」という本来の中身が、空っぽのまま更新され続けている。ゴールド免許の矛盾は、この構造の表れでもある。

14年ぶりにハンドルを握る人たち

では、運転しないまま年月を重ねた人は、その後どうなるのか。興味深いデータがある。出張型のペーパードライバー講習を27年間続けてきたウインクリエートという会社が、2026年に1万6千件の受講者アンケートを分析して公表した。運転を「やり直したい」とお金を払ってやってくる人たちの横顔だ。

まず、受講者の81%が女性だった。そのうち7割以上が30代から40代に集中している。そしてもっとも目を引くのが、ブランクの長さだ。「何年ぶりの運転か」を書いた人の平均は14.3年。なかには45年ぶり、という人までいた。十代で免許を取り、以来一度も運転せず、還暦近くになって初めて自分でハンドルを握ろうとする。そんな人が現実にいる。

彼女たちが運転を再開しようと思った理由の最多は、ドライブでも通勤でもなく「車庫入れ・駐車ができるようになりたい」だった。次いで「子どもの送迎」「買い物」「仕事」と続く。つまり、運転そのものがやりたいわけではない。子どもの保育園の送り迎え、習い事の付き添い、年老いた親の通院の付き添い。生活のある局面で、どうしても車が要る場面が訪れて、14年しまいこんでいた金色のカードを引っぱり出す。

久しぶりにハンドルを握る人(本文中部)

ここに、ゴールド免許のもう一つの顔がある。それは「使わないまま温存されてきた、いざというときの保険」だ。多くの人は、免許を一種のお守りのように持っている。今は要らない。でも、いつか子育てや介護で必要になるかもしれない。だから失効させずに更新だけ続ける。優良運転者という肩書きは、その温存の副産物として金色になっていく。

あなたの財布のなかのカードは、どちらの顔をしているか

この話は、車が好きかどうかとはほとんど関係がない。車に興味がなくても、免許を財布にしまったまま何年も過ごしている人は多い。

免許を14年しまいこんだ人が、ある日どうしても運転しなければならなくなる。そのとき直面するのは、技能そのものより、自信の問題だ。先の調査で見た25.4点という数字は、腕が落ちたというより、「できない」という思い込みが固まってしまった状態に近い。講習を受けた人の多くが取り戻したのは運転技術というより、「意外とできる」という感覚のほうだった。長く眠らせるほど、カードはただの身分証に戻っていき、再び運転する資格として目覚めさせるのに手間がかかる。

もし今、あなたの財布のなかに金色の帯のカードがあって、最後に運転したのがいつか思い出せないなら、それはおそらく「優良運転者」ではなく「運転を温存している人」のカードだ。どちらが良い悪いの話ではない。ただ、そのカードが証明しているのは安全運転の腕前ではなく、「まだ運転する選択肢を手放していない」という事実のほうだと知っておくと、いざ必要になったときの構えが変わる。

中古車の相談を受ける現場でも、「免許はあるけど運転は10年ぶり」という人は珍しくない。そういう人に、いきなり大きな車や高性能な一台を勧めてもうまくいかない。必要なのは、取り回しがよく、駐車のしやすい、自信を取り戻しやすい車だ。車選びは、スペックの比較表より先に、「その人がどれだけ運転から遠ざかっていたか」から始まることがある。

ゴールド免許が静かに抱えてきた矛盾は、裏を返せば、私たちの多くが「運転できる人」ではなく「運転できることになっている人」だという事実をあらわにしている。財布のなかのあの金色が、本当に腕の証なのか、それとも長い休眠の証なのか。それを確かめる方法は、ひとつしかない。久しぶりに、車庫から車を出してみることだ。

参照元: 三井住友海上火災保険「ペーパードライバーに関する実態調査」(2023年3月31日発表)/株式会社ウインクリエート「ペーパードライバー講習受講者1万6千件の実態調査」(2026年7月2日発表)/内閣府「令和7年版 交通安全白書」(運転免許保有者数)/パーク24「運転免許の取得理由に関する調査」(タイムズクラブ会員調査)

車選びドットコムマガジン編集部

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