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世界でEVが3割に到達するのに、日本はなぜハイブリッドを買い続けるのか

世界でEVが3割に到達するのに、日本はなぜハイブリッドを買い続けるのか - サムネイル

2026年、世界の新車の3割がEVになる。ところが日本のEV比率はわずか3%。ハイブリッド車が5割近くを占める日本で、消費者は何を選ぶべきなのか。

Chapter
世界の「EV化」と日本の「HV化」、同じエネルギー危機が生んだ分岐
「補助金に頼らないEV」という理想と、日本の現実
日本のメーカーが「ハイブリッド回帰」を選んだ、もう一つの理由
あなたが次に車を買うとき、「世界の潮流」を気にする必要はあるのか
世界でEVが3割に到達するのに、日本はなぜハイブリッドを買い続けるのか - サムネイル

2026年、世界の新車販売台数の約3割が電気自動車(EV)になる。国際エネルギー機関(IEA)が5月に発表した年次報告書は、こう予測している。中国では新車の半分以上がすでにEVだ。欧州では前年比3割以上の伸びでシェアが28%に達した。東南アジアや中南米でも、EVはじわじわと日常の移動手段へと溶け込んでいる。

一方で日本は、どうだろう。2026年4月の新車販売データを見ると、EV(BEVとPHEVの合計)の比率はわずか3.27%だ。やっと3%の大台に乗ったかと思えば、それでも世界の平均の10分の1に過ぎない。じつに新車の約半数がハイブリッド車(HV)であり、その比率はほかのどの先進国とも比べ物にならない高さだ。

「EVこそが未来だ」と聞かされ続けてきた我々にとって、この対比は理解しがたい。日本は技術的にも経済的にも、決して世界から遅れを取っているわけではないはずだ。にもかかわらず、なぜ日本だけがHVに固執し続けるのか。それは単なる「遅れ」なのか、それとも、私たちの暮らしに合った「別の答え」なのか。このギャップを、一度、冷静に見つめ直してみたい。

世界の「EV化」と日本の「HV化」、同じエネルギー危機が生んだ分岐

世界のEV化と日本のHV化 - 上段イメージ

2026年の世界のEV市場を牽引しているのは、意外なことに「エネルギー危機」だ。中東情勢の悪化によりガソリン価格が高騰し、多くの国で「脱ガソリン」の流れが加速している。IEAの報告書も指摘するように、燃料価格の高騰はEVにとって追い風となり、2026年の世界EV販売は前年比1割増の約2300万台に達する見通しだ。

ところが日本では、事態は真逆の動きを見せている。イラン情勢による石油高騰の影響を受けながらも、2026年4月の販売台数ではガソリン車の比率が前年同月比で3.57ポイントも上昇し、46.82%に達した。同時にHVは前年比で減少したものの、依然として45.76%という圧倒的な比率を維持している。つまり、日本で最も売れているのはガソリン車とハイブリッド車で、これらを合わせると新車の9割近くを占める。

この違いの根源には、各国の「エネルギー事情の違い」がある。欧州や中国では、電気の供給網が比較的安定しており、家庭での充電環境が整っている。特に中国は、電気代が低廉で充電インフラも急拡大しており、EVが「安くて便利な選択肢」として受け入れられている。

対して日本では、電気代が高く、停電リスクへの不安も根強い。2026年5月、政府は夏場の電気・ガス料金の高騰を受け、予備費から5000億円以上を支出して家計補助を行うことを閣議決定した(出典1)。電気代がこれだけ注目される社会では、「EVに乗れば電気代が安く済む」という単純な計算は成り立ちにくい。むしろ、「電気代が上がるなら、ガソリンで走れるHVの方が安心ではないか」という心理が働く。

「補助金に頼らないEV」という理想と、日本の現実

EV普及を後押ししてきた最大の原動力は、各国の補助金政策だった。だが2026年に入り、その潮流も変わりつつある。米国ではトランプ政権がEV購入に対する税額控除の見直しを進め、市場に不確実性が広がっている。中国も、手厚い補助金の段階的な縮小を進めている。世界は「補助金頼みのEV普及」から、「自走できる市場」への transition point(移行点)を迎えている。

日本の場合、補助金制度はまだ存続しているものの、その設計に歪みがある。経済産業省所管のCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)は、令和7年度補正予算で約1100億円規模が確保され、EV乗用車の場合上限130万円という額になっている(出典2)。だが、実際の交付額は車種ごとに異なり、登録日によっても変動する。

問題は、補助金の額がメーカー間で大きく異なる点だ。例えば、2026年4月以降の新規登録分では、トヨタのbZ4Xなどの国産EVは引き続き高額の補助が適用される一方、中国メーカーのBYDの主要車種は補助金が15万円にまで減額された。国産と輸入車の間に数十万円の差が生じることで、消費者の選択は補助金の多寡に左右されてしまう。これは「環境に優しい車を普及させる」という補助金の本来の目的からはずれた動きだ。

日本の充電インフラ問題 - 中段イメージ

さらに、EVを買っても「充電できる場所」がない、という問題がある。政府は2030年までに公共用・準公共用の充電器を30万口整備する目標を掲げているが、2024年末時点での実績は約4〜5万口程度に留まっている(出典3)。マンション住まいが多い日本では、自宅に充電器を設置すること自体が難しく、集合住宅の駐車場への充電設備導入は高コストで管理組合の合意も必要だ。充電インフラの補助金制度自体も、法人や集合住宅の申請が激戦となり、個人が気軽に使える環境にはまだ遠い。

結果として、日本の消費者がEVを買う際の最大の障壁は「価格」ではなく「利便性」なのだ。補助金で本体価格を下げても、毎日の充電の手間や、遠出の際の「レンジ不安」が払拭されない限り、EVは「慎重な選択」であり続ける。

日本のメーカーが「ハイブリッド回帰」を選んだ、もう一つの理由

世界でEVが拡大する中、日本の自動車メーカー各社は決算説明会で、驚くべき方針転換を示した。それが「ハイブリッド回帰」だ。

この背景にあるのは、急速に変化した「外部環境」だ。2025年4月、米国は国家安全保障を理由とした追加関税(いわゆるトランプ関税)として、自動車・部品に高い税率を発動した(出典4)。これにより日本メーカーの損害は計り知れない。各社の決算説明会資料などの補足開示によると、米国関税の影響はトヨタで約1兆3800億円、ホンダで3469億円、日産で2860億円、スバルで2269億円、マツダで1549億円という試算が示されている(出典5)。ただし、これらは決算短信(法定開示書類)本体に記載された実績値ではなく、関税影響を単独で試算した補足資料に依存する数値であり、厳密な一次情報源としての性格には留意が必要だ。さらに資材費の高騰、中東情勢による供給網の混乱も重なり、自動車メーカーは「確実に儲かる車」へと注力をシフトせざるを得なくなった。

ここでEVは不利な立場にあった。EVにはまだ収益性の課題があり、専用の工場や部品サプライヤーの再編も必要だ。対してHVは、既存の生産ラインを活用でき、顧客ニーズも確実に存在する。米国でEV補助金政策が不透明になったことで、EVの価格競争力が相対的に低下し、HVの魅力が相対的に高まった。メーカーにとって、HV強化は「守り」の戦略であり、無理にEVを押し出して赤字を拡大するより、現状を維持する方が合理的なのだ。

このメーカー側の戦略転換は、結果として日本のディーラーの在庫比率や販売キャンペーンに反映されている。店頭に並ぶ新車の多くがHV仕様であり、EVは限定モデルや一部グレードに押し込まれる傾向が続いている。消費者が店頭に行けば、「HVならすぐ乗れて、値引きもしてもらえる」という現実が待っている。これが、EVの3%という数字を作り出している、もう一つの構造だ。

あなたが次に車を買うとき、「世界の潮流」を気にする必要はあるのか

では、私たち一人ひとりにとって、この「世界と日本の違い」はどう意味するのだろうか。

結論から言えば、今の日本に住む人が次に車を買うとき、「世界のEVシェアが3割になったから、EVを買わなければならない」という焦燥感は、捨ててよい。主要な理由は3つある。

一つ目は、日本の「走る環境」がEVに最適化されていないことだ。先述の通り、充電インフラは十分ではなく、電気代も高い。自宅に充電設備がない人にとって、EVは「週末にショッピングモールの充電スタンドで2時間待つ」というライフスタイルを強いることになる。それが苦痛でない人もいれば、現実的ではない人もいる。

二つ目は、HVが「過渡期の産物」ではなく、技術的に成熟した選択肢になっていることだ。日本のHV技術は30年以上の蓄積があり、燃費も信頼性も高い。中古市場でのリセールバリューも安定しており、故障時の修理網も全国に張り巡らされている。一方、EVは、特に中古市場におけるバッテリーの状態判定や修理体制が未成熟で、長期保有を視野に入れるユーザーにとってはリスクが大きい。

三つ目は「政策の風向き」だ。日本の政府目標は2035年までに乗用車新車販売の電動化比率を100%としているが、HVもその「電動車」の定義に含まれている。つまり、HVを買うことは、日本の政策の文脈では「脱炭素に貢献している」と見なされる。EVへの強制力は、少なくとも日本国内では当面の間、それほど強くない。

もちろん、EVにメリットがないわけではない。メンテナンスが少なく、静かで、スマートなエネルギーマネジメントが可能な点は魅力だ。戸建てに住み、自宅に充電器を設置でき、主な移動範囲が都市内に限られている人にとっては、EVは極めて合理的な選択だろう。ホンダが5月に発売した小型EV「Super-ONE」や、シトロエンの「ë-C3」など、400万円台から手が届くコンパクトEVも登場し始めている。ニーズが合えば、選択肢に入れてもよい。

だが、それは「世界がEVだから」ではなく、「自分の生活に合うから」という理由で選ぶべきだ。世界の3割という数字は、中国や欧州の事情を反映したものであって、日本の集合住宅に住み、雪国で週末に山道を走る人の生活とは無関係だ。

次にショールームを訪れたとき、営業マンが「今はEVがおすすめです」と言ったら、一度、自分の充電環境と電気代、そして10年後のことを想像してみてほしい。世界のトレンドは、あなたの毎日の利便性よりも、ずっと遠くにある。

参照元:
* 一般社団法人次世代自動車振興センター:CEV補助金対象車両一覧(令和8年4月1日以降登録分)
* 経済産業省:充電インフラ整備目標(2030年までに30万口)
* 各社2025年度決算説明会資料(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、SUBARU、マツダ)
* IEA Global EV Outlook 2026(2026年5月20日発表)
* 朝日新聞「世界の新車4台に1台がEV、日本は3%未満で停滞」(2026年5月21日)
* 一般社団法人日本自動車販売協会連合会(JADA)・全国軽自動車協会連合会:燃料別販売台数(2026年4月)

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