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「補助金で最大260万円もらえる」の但し書き。安く買えたEVは、数年間あなたのものであってあなたのものではない

EV補助金 手放せない但し書き(サムネイル)

「最大260万円もらえる」と喜んで買うEV。実は補助金には、しばらく自由に手放せなくなる「処分制限期間」という但し書きが付いている。安く買えたEVがなぜ数年間あなたのものであってあなたのものでもないのかを解説する。

Chapter
補助金をもらった車は、しばらくのあいだ「勝手に手放せない」
理屈は分かる。補助金は、あなたのためだけのお金ではない
4年は、あなたが思うより長い
「もらう」という言葉が、判断をゆるめる
得の「額」ではなく、「いつまで、何を約束するのか」を見る
EV補助金 手放せない但し書き(サムネイル)

補助金で安く買えたその電気自動車(EV)は、買った瞬間から数年間、あなたの名義でありながら、あなたが自由には手放せない車になっている。売りたくなっても、まず「売っていいですか」と役所に届け出て、承認をもらわないといけない。知らずにハンコを押すと、数年後に少し困ったことになる人がいる。

そんな縛りがあるとは思わず、いま多くの人が販売店に足を運んでいる。2026年、EVの販売がにわかに勢いづいている。日本自動車販売協会連合会によれば、この年の1月から7月までの乗用車EV販売は、軽自動車を除いて6万台を超えた。過去最高だった年の実績をすでに上回り、初めて年間10万台に届くかどうか、という水準にある。

理由ははっきりしている。お金だ。国の購入補助金の上限が、この年から40万円増えて最大130万円になった。東京都も都独自の補助を最大130万円まで引き上げた。単純に足せば、東京都民は国と都を合わせて理論上、最大260万円ほどの補助を受け取れる計算になる。

260万円という数字は、それ自体が一台の車の値段だ。新車が実質的に半額近くになるほどのインパクトがあり、「補助金でこれだけ安く買えるなら」と販売店に足を運ぶ人が増えたという声も報じられている。

補助金は、もらえるお金。車が安くなる、ありがたい制度。そう理解して、たいていは間違っていない。ただ、この「ありがたいお金」には、見積書の目立たないところに書かれた「但し書き」がある。冒頭に書いた「勝手に手放せない」は、まさにその但し書きの正体だ。

補助金をもらった車は、しばらくのあいだ「勝手に手放せない」

EV購入と処分制限期間

国の購入補助金(CEV補助金と呼ばれる制度)を受け取ったEVには、「処分制限期間」という縛りがついてくる。

処分制限期間とは、平たく言えば「一定の年数はその車を勝手に手放してはいけません」という約束のことだ。年数は車の区分などによって違い、自家用の乗用車ではおおむね4年、区分によっては3年とされている。

この間のあいだに、車を売る、人に譲る、廃車にする、あるいは事業用に用途を変えるといったことをすると、まず制度の実行機関に事前に届け出て承認をもらう必要がある。そして多くの場合には、受け取った補助の一部、事情によっては全部を返さなければならない。

しかも、こっそり処分すれば済むわけでもない。補助金を支給する側は、車が持ち主名義のままあるかを定期的に確認している。承認を受けずに処分したことが判明したら、補助を全額返納してもらう、という運用になっている。

つまり、こういうことです。260万円得したと喜んでいたあの車でも、売りたいときはまず「売っていいですか」と聞かねばならず、実際に返却する場合には割引額の一部が戻す対象になる。受領した「お金」です。実は「何年かはきちんと乗り続けます」という質約束と交換に、先に割り引かれていた「前借り」だったのです。

理屈は分かる。補助金は、あなたのためだけのお金ではない

ここで、制度が意地悪をしているわけではない、ということもはっきり言うべきだろう。

補助金の原資は税金である。そして、このお金を配る目的は、あなたに得をさせることそのものではない。EVという乗り物を世の中に増やし、充電インフラや次の技術が育つ土壌をつくること、という政策目的が先にある。あなたへの割引は、その目的を進めるための手段にすぎない。

もし補助金をもらった人が、翌日その車を高く転売できてしまったらどうだろうか。税金で安く買って、売って差益を得るという抜け道がいくらでも生まれてしまう。それでは「EVを普及させる」という当初の目的は果たされず、お金だけが消えていく。

だからこそ、制度は「安くしてあげるかわりに、しばらくはちゃんと乗ってください」という条件を付けるのだ。これはEV補助金に限ったはなしではない、税金を投入して何かを助ける制度には、多ほぼ少なからずこの種の縛りがついて回る。理屈としてはむしろまっとうである。

しかし、まっとうな理屈であることと、買う人がそれを理解して選んでいるということうは、別の問題である。

4年は、あなたが思うより長い

「4年くらい、どうせ乗るでしょう」と思う。実際、多くの人はそうだろう。だが、EVという乗り物に限っては、この「どうせ乗る」の前提が、以前より当てにならなくなっている。

理由はいくつかある。ひとつはEVの価値の変わり方だ。EVはバッテリーが心臓であり、その状態や、後から登場する新型の性能によって、中古の値段が大きく左右される。「走行距離が少なければ安全」というガソリン車の長年の常識が、EVでは半分しか通用しないという現象も起こり始めている。数年後、思ったより値が落ちている、あるいは逆に「今のうちに乗り換えたい」と感じる場面が、ガソリン車よりも訪れやすい。

もうひとつは、ソフトウェアだ。最近のEVは買った後に通信で機能が追加されたり、一部の機能を月額で提供するという形に変わったりすることがある。数年前に買った一台が、途中で気持ちが離れてしまう乗り物になることもある。

そして、暮らしの側の事情もある。この数年間に転勤し、子どもが生まれ大きな車が必要になるかもしれない。あるいは反対に家族が減って大きな車が要らなくなるかもしれない。都心に引っ越して、そもそも車が邪魔になることもある。車を手放したくなる理由は、車のせいではなく暮らしの段から突然やってくるのだ。

そのとき「補助金の縛りがあと1年残っている」という事実が、選択肢を静かに、確固に狭める。売りたいのに、売ると何十万円も返すことになる。だからあと1年乗るか、と、本当は望んでいない選択を続けざるを得ない。

安く買えたはずのお得は、手放したいときになって初めて、値札の裏に隠れていた「期限」としてその姿を現す。

「もらう」という言葉が、判断をゆるめる

ここまで読んで「そんな大切なこと、なぜみんな気にせず買うのか」と思う人もいるだろう。そこには、お金にまつわる小さな心理のクセがある。

私たちは「もらえる」という言葉に弱い。もらえるお金、無料、還元、キャッシュバック。そうした言葉を聞くと頭のなかで「これは純粋にプラスだ」というラベルが張られる。プラスであるものには条件が付いているとは考えにくい。だから、だし書きの本文を読む前に「ラッキー」と思って判断が終わってしまう。

それは補助金に限らない。住宅を買うときのあらゆる優遇、家電の下取りキャンペーン、通信料金の「実質0円」。身近な「お得」の多くが、実は「一定期間、約束を守ってくれたら」という条件と引き換えである。なのに私たちはその約束の部分をほぼ読まず、割引の額だけを見て得した気分で契約する。

車は金額が大きい分、この現象が結果に最も現れやすい。260万円という数字の大きさは、判断を弱める方向にしか動かない。額が大きいほど「まさか裏表があるはず」と警戒する人も、逆に「とにかくお得」としか受け取れなくなったる人もいる。補助の説明が額の見出しばかり強調され、条件が小さく書かれがちなのは、まさにそうした受取られ方を前提としたからである。

得の「額」ではなく、「いつまで、何を約束するのか」を見る

では、どう向き合えばよいのか。難しい話ではない。

大きな買い物で「お得です」と言われたとき、割引の額を確認するのと同じくらいの強さで、もうひとつを確認してほしい。「この得と引き換えに、私は何を、いつまで約束することになるのか」という問いだ。

EVの補助であれば、答えは「数年間、この車を自分の手元に置き続けること」だ。割引額の大きさに喜ぶ前に、それが自分の暮らしの見込みと一致するかを一度確かめたい。4年後に同じ土地で、同じ家族構成で、この車に乗り続けられるか。もし途中で手放す可能性が頭をかすめるなら、そのときに返すことになる金額も踏まえてこそ、はじめて「本当にお得か」を語れる。

もちろん補助金を使うな、と言っているのではない。長く乗るつもりで暮らしも安定しているなら、条件が生活と噛み合い、260万円の割引は文句なしにありがたい制度になる。噛み合っている人にとっては、縛りが「縛り」として意識されることすらない。

ただし「もらえるお金」という言葉に判断を委ねてしまうと、その噛み合いを確かめることなく契約へ進むことになる。得の大きさと得の自由さは別物。安く買えるということは、しばしばその分、どこかで自由を少し預けていることを意味している。

補助金の但し書きを見る習慣

車の見積書で、いちばん目立つのは割引の数字。その少し下に、小さな字で書かれているかもしれない約束の一行を、次に大きな買い物をするときは、ほんの数秒だけ探してみてほしい。その習慣がつけば、車に限らず、世の中の「お得」の見え方が少しだけ変わってくるはずだ。

参照元: 一般社団法人 次世代自動車振興センター(NeV)「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)のご案内」および財産処分・処分制限期間に関する案内、経済産業省「CEV補助金の補助上限額の見直しについて」、東京都・東京都環境局(クール・ネット東京)ZEV車両購入補助金に関する報道発表、日本自動車販売協会連合会の2026年EV販売台数に関する各社報道(産経新聞・中日BIZナビ ほか)

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