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あなたの車を「壊れても直せばいい」と思えるのは、いま全国で数が足りない人たちのおかげだ。4人に1人が外国から来ている工場もある

記事サムネイル(自動車整備士不足と外国人材)

「壊れても、直せばいい」。その前提を支える自動車整備士が、いま全国で足りない。有効求人倍率は5倍超、整備業者の休廃業・解散は過去最多。現場では外国から来た整備士が4人に1人を占める工場もある。車を直す「誰か」のいまを追う。

Chapter
求人5件に、応募は1件
「もう受けられません」と言う工場が、過去最多で消えている
「車の寿命」を決めているのは、鉄ではなかった
その穴を、いま誰が埋めているのか
「選ばれる国」でいられるか
次にあなたの車を直すのは、誰だろう
記事サムネイル(自動車整備士不足と外国人材)

車を買うとき、あるいは古くなった車をもう一年乗ろうと決めるとき、私たちはほとんど無意識に、一つの前提を置いている。

「壊れても、直せばいい」。

エンジンから変な音がしたら工場に持っていけばいい。車検はいつもの店に頼めばいい。ぶつけたバンパーも、電装トラブルも、タイヤの交換も、電話一本で誰かがなんとかしてくれる。その「なんとかしてくれる誰か」の存在を、私たちは当たり前だと思っている。

ところが、この当たり前がいま、静かに崩れかけている。車そのものではなく、車を直す人が足りなくなっているのだ。

本文用画像(自動車整備の現場)

求人5件に、応募は1件

まず、素っ気ない数字から入りたい。

自動車整備士の有効求人倍率は、2024年度でおよそ5倍に達した。厚生労働省の職業別統計で「自動車整備・修理工」を見ると、令和6年度は5.09倍。全職種の平均が1.14倍であることを考えると、その差はおよそ4.5倍になる。5件の求人に対して、手を挙げる人は1人しかいない、という状態だ。

しかも、この数字は一時的な景気の話ではない。2020年度は4.50倍で、そこから毎年じわじわと上がり続け、5倍を超えたのは確認できる範囲でこの年が初めてだった。人手が足りない業界は他にもあるが、整備士は、慢性的で、そして構造的に人が来ない仕事になっている。

理由の一つは、担い手の高齢化である。整備業界の団体が行った調査によると、現場で働く人の平均年齢は2024年時点で47.4歳。毎年少しずつ上がっている。ディーラーではない街の整備工場では、平均が50歳を超える年も続いている。

そして入口が細っている。整備士を養成する専門学校の入学者数は、2003年ごろの年間およそ1万2000人をピークに、この20年で半分近くまで減った。「手が汚れる」「油くさい」というイメージや、給料に合わない負担が、若者の進路から整備士を遠ざけている。

「もう受けられません」と言う工場が、過去最多で消えている

数字は、現場にもはっきり表れている。

帝国データバンクの調査によると、2024年度の休廃業・解散と倒産は445件で過去最多。2026年も上半期だけで295件と、過去最多のペースだ。「人がいなくて店をたたむ」という人手不足が原因の撤退も目立つ。

車を直せる場所そのものが、地図の上から少しずつ消えているということだ。

生活者にとっていちばん分かりやすい変化は、車検だろう。国は2025年4月から、車検を受けられる期間を「満了日の1か月前」から「2か月前」までに広げた。年度末の需要集中を避けるための措置だ。

一見すると、ユーザーへの親切に見える。しかし裏を返せば、国が「いまの人手では車検需要をさばききれない」と認めたことでもある。予約はすでに無理が重なり、軽い整備でも待たされる例が出始めている。

「車の寿命」を決めているのは、鉄ではなかった

ここで、見方の転換を提案したい。

私たちはふだん、車の寿命を「モノ」の側で考える。エンジンがへたる、ボディがサビる、10万キロを超える、部品がもう出ない、というように。

しかし日本車は、手入れさえすれば長く走ることで知られている。日本で「もう古い」と見なされた車が、海外では20年、30年と現役だ。つまり、車の寿命を決めているのは、鉄ではなく、「それを直せる人が、まだいるか」なのである。

直してくれる人がいなければ、まだ十分走れる車でも行き場を失う。逆に、そういう人がいる限り、古い車は生き延びられる。私たちが「車の寿命」と呼ぶものの正体は、整備する人のいる社会だ。

その穴を、いま誰が埋めているのか

では、細っていく担い手を、現場では誰が支え始めているのか。

答えは、日本の外から来た人たちだ。

具体的な数字を挙げる。神奈川県内で100を超える店舗を持つ神奈川トヨタでは、整備士およそ800人のうち、約200人が外国出身だ。ざっと4人に1人である。三菱ふそうトラック・バスでも、約2300人の整備士のうち約450人が外国出身と報じられている。

制度の面でも受け皿は整ってきた。2016年に自動車整備は技能実習の対象になり、2019年には特定技能の分野になった。特定技能で働くには、整備の技術試験と日本語N4の合格が必要だ。在留する外国人は、2023年末は約2500人、2024年末には約3000人へ増えている。

ただし、彼らの仕事は車を直すだけではない。点検や整備の記録は法律上、日本語で書かないといけない。実際にはN4より上の日本語が必要という声があり、日本語を教える研修を9か月行う会社も出てきた。

「選ばれる国」でいられるか

2026年、政府は外国人の受け入れをめぐる政策を次々と厳しくした。永住や帰化の要件を引き上げ、在留資格の手数料も大幅に上げ、一部の分野では受け入れを止めた。

整備の世界では、ディーラー同士が外国人の整備士を取り合う「争奪戦」が起きている。日本社会のかなりの部分は、すでに外国から来た人の手で回り始めている。

「外国人に選んでもらう」という発想は、これまで日本の得意分野ではなかった。しかし、自分の車を次に整備するのが誰なのかを想像すると、この問いは自分ごとになる。

次にあなたの車を直すのは、誰だろう

次に車の整備を頼むとき、あなたは誰に頼む?見知らぬ隣国から、来てくれた若者かもしれないし、長年近所で働くベテランかもしれない。どちらであれ、その人の技術があって、初めて暮らしの日常が回っている。

次に車検の予約を入れるとき、作業を終えたその人に目を向けてほしい。その横顔が、日本で育った人かもしれないし、遠い国から来て、いまも漢字と格闘している人かもしれない。その人がいなければ、「壊れたら直せばいい」とは言えなくなる。

車の価値を決めていたのは、カタログのスペックでも査定表の数字でもなかった。それを直せる人が、この社会にまだ残っているかどうか。私たちが車に払ってきたお金の一部は、その人たちへの見えない前払いだったのだ。

参照元: 厚生労働省 職業別有効求人倍率(自動車整備・修理工、令和6年度)に関する報道・一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(JASPA)「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」・国土交通省「省力化投資促進プラン―自動車整備業―」(令和7年6月)・国土交通省 報道発表資料「来年4月より、車検を受けられる期間が延びます」(2024年6月)・帝国データバンク「自動車整備業者の倒産・休廃業解散動向(2024年度/2026年上半期)」・国土交通省「自動車整備分野『特定技能外国人』受入れのためのガイドブック」(令和7年5月)・出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」統計・ベストカー(神奈川トヨタ・三菱ふそうトラック・バスの外国人整備士に関する記事、2025年)・日本経済新聞(自動車ディーラーの外国人整備士採用に関する記事、2025年)

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