中古車が買いたくなる自動車WEBマガジン

あなたの親が乗っていた車より、今のコンパクトカーは600kg重い。車はなぜ、こっそり太り続けてきたのか

コンパクトカー重量増加のサムネイル

実家の車と比べて「なんかデカい」と感じたことはないだろうか。半世紀でコンパクトカーは600kgも重くなった。その静かな変化の理由と、歩行者にも影響する思わぬ副作用、そして世界で始まった「重さに値段をつける」動きを追う。

Chapter
カローラは半世紀で「大人約10人分」重くなった
「同じ名前」のまま、車は一段ずつ大きいクラスへ引っ越していた
ここで奇妙なことが起きる。「安全のために重くした車」が、外を歩く人には危険になった
ヨーロッパの街は、ついに「重さ」に値段をつけ始めた
「小さいことは、豊かなことだ」と言い出したメーカーもある
次に車を見るとき、少しだけ「重さ」に目がいくはずだ
コンパクトカー重量増加のサムネイル

立体駐車場のゲートで、入庫を断られた経験はないだろうか。あるいは、実家に帰って親の運転する車に乗り込んだとき、思ったより車内が広くて驚いたことは。スーパーの駐車場で、隣に停まった真っ黒で背の高い車のせいで、自分の車のドアがちょっとしか開けられなかった朝は。

なんとなく「最近の車、デカいよな」と感じている人は多い。けれど、それを正確に言える人は少ない。実のところ、車はこの半世紀、ほとんど誰にも気づかれないペースで、静かに、確実に太り続けてきた。しかも、その太り方には理由があり、その理由が今、思いがけない場所で問題を起こし始めている。

車を持っていてもいなくても、毎日のように道路を渡り、駐車場を歩く私たちにとって、これは他人事ではない話だ。

カローラは半世紀で「大人約10人分」重くなった

フォルクスワーゲン ゴルフ

数字で見ると、変化の大きさにぎょっとする。

日本でもっとも売れてきたコンパクトカーの代表、トヨタ・カローラ。1966年に出た初代は、車重がおよそ700kg、全長は3.85メートル、全幅は1.49メートルしかなかった。今の感覚でいえば、軽自動車に毛が生えたくらいの大きさだ。

ところが現行のカローラは、車重がおよそ1.3トン。半世紀で600kg以上も重くなった。これは、力士ひとりぶんどころか、コンサート会場にある大きなグランドピアノを載せて走っているようなものだ。全長は4.5メートル近くまで伸び、全幅も25cmほど広がった。

これはカローラだけの話ではない。ヨーロッパで国民車と呼ばれてきたフォルクスワーゲン・ゴルフも、1974年の初代はおよそ750〜820kg、全長3.7メートル。今の8代目はおよそ1.3〜1.5トンで、全長は4.3メートル近い。ホンダ・シビックにいたっては、1973年の初代がわずか615kg。現行型は1.3トンを超え、半世紀で重さが倍以上になった。

ひとつの車種だけでなく、市場全体が太っている。欧州で売られる新車の平均車重は、2000年ごろのおよそ1,150kgから、2023年にはおよそ1,450kgまで増えた。20年あまりで、平均的な一台が約300kg重くなった計算だ。

ここで多くの人が抱く疑問は、たぶんこうだ。技術が進んで、軽くて丈夫な素材も増えたはずなのに、なぜ車は逆に重くなっているのか。

「同じ名前」のまま、車は一段ずつ大きいクラスへ引っ越していた

車のサイズ比較イメージ

理由は、ひとつではない。だが大きな流れは、つかみやすい。

まず、私たちが車に求めるものが増えた。昔の車にはなかった装備が、今はほぼ標準でついている。

エアバッグ、衝突を防ぐ自動ブレーキ、安全のために分厚くなったボディの骨格、エアコン、たくさんのモーターやセンサー。安全と快適のための部品が、一枚ずつ車に貼り重なっていった。一つひとつは数kgでも、積もれば数百kgになる。

そして、これがいちばん効いているのだが、人々が大きい車を選ぶようになった。背の高いSUVと呼ばれるタイプの車だ。地面から座席までが高く、見晴らしがよく、なんとなく安心感がある。この車種は、世界の新車販売のおよそ半分を占めるまでになった。

調査会社JATOの集計では、2023年時点で世界の新車のおよそ47%がSUV。ヨーロッパでは半分を超えた。日本でも、軽自動車を別にすれば、SUVの新車はかなりの割合を占めるようになっている。

SUVは、同じ大きさのセダンより重い。背が高いぶん、車体も座席も高い位置にあり、構造もがっしりしているからだ。みんなが少しずつ大きく重い車を選んだ結果、街全体の平均がじわじわ上がっていった。

おもしろいのは、車の「名前」がそのまま残っていることだ。カローラもゴルフもシビックも、名前は半世紀前と同じ。だから私たちは、同じ車がただ新しくなっているだけだと思いがちだ。けれど中身を見れば、昔のカローラのサイズは今の一段下のクラスにあたり、昔の小さなゴルフが収まっていた場所には、今では一クラス小さい車が入っている。

名前は据え置きのまま、実際には車が一段ずつ上の体格へ引っ越していた。気づかなかったのは、引っ越しが一世代ごとに数cm、数十kgというゆっくりした歩幅で進んだからだ。

ここで奇妙なことが起きる。「安全のために重くした車」が、外を歩く人には危険になった

ここまでなら、「車が豪華になって大きくなった、けっこうなことじゃないか」で終わる話かもしれない。実際、車に乗っている人にとっては、重くて大きい車は守られている感覚がある。ぶつかったとき、重いほうが有利だというのは、物理的にもおおむね正しい。

ところが、車の外に立つ人から見ると、話がきれいに裏返る。

歩行者や自転車との衝突を調べてきた研究は、車が重く、そして背が高くなるほど、ぶつかられた人が亡くなる確率が上がることを繰り返し示している。アメリカの道路安全保険協会(IIHS)が2020年に出した分析では、ボンネットの前端が高く、面が立ち気味の車は、歩行者の上半身や頭部を直接たたいてしまうため、致死率が大きく跳ね上がる。車高が高い車ほど、人を「はね飛ばす」のではなく「巻き込んで踏む」形になりやすい、という指摘もある。

背の低い昔ながらのセダンなら、歩行者はまず脚をすくわれ、ボンネットの上に乗り上げる。それでも軽傷ではないが、命に関わる頭への衝撃は受けにくかった。ところがボンネットの高いSUVは、最初に当たる場所が腰から上になる。同じ速度でも、結果がまるで違ってくる。

ヨーロッパの交通安全の研究でも、車高が10cm高くなるごとに歩行者の致死リスクが2割ほど上がる、SUVと歩行者の事故では死亡率がふつうの乗用車のおよそ2倍になる、といった数字が示されている(具体的な倍率は、速度や年齢など条件によって幅があり、ひとつの値に固定はできない【未確認の幅あり】)。

つまり、こういうことだ。一人ひとりが「自分と家族の安全のために」大きく重い車を選んだ結果、車の外を歩いている別の誰かにとっては、街がじわじわ危険になっていた。自分の安全を買う行為が、見ず知らずの歩行者の安全を少しずつ削っていた。これは誰かが悪意でやったことではなく、合理的な個人の選択が積み重なって、全体として困った結果を生む、という社会のよくある仕組みそのものだ。

ヨーロッパの街は、ついに「重さ」に値段をつけ始めた

シトロエン 2CV

この逆説に、もっとも早く反応したのがヨーロッパの都市だった。

2024年2月、パリ市は「大きく重いSUVの駐車料金を上げるかどうか」を住民投票にかけた。賛成が54.5%で可決され、市の中心部では、おおむね1.6トンを超える車(電気自動車は重い電池を積むので2トン超)の駐車料金が、1時間あたりおよそ18ユーロへと、それまでの3倍に引き上げられた。日本円なら、ちょっと停めるだけで数千円という水準だ。

同じ年、フランスは国全体でも動いた。新車を登録するとき、車重が1.8トンを超えると、超えたぶんの重さに応じて税金がかかる仕組みを導入した。重い車を買うほど、最初に払う税金が増える。リヨンやミラノなど、ほかの欧州都市でも、重さやサイズに応じて駐車料金を変える動きが広がりつつある。

これらの政策が言っているのは、要するにこういうことだ。あなたが重い車を選ぶのは自由だ。でも、その重さが道路や歩行者や街にかける負担は、これまでタダだった。これからは、その負担に値段をつけます、と。

車の値段は、長いあいだ「性能」と「装備」で決まってきた。そこに今、「重さそのものが社会にかけるコスト」という、まったく別のものさしが入り込み始めている。

「小さいことは、豊かなことだ」と言い出したメーカーもある

太り続ける流れに、正面から逆らおうとする動きもある。

2026年、フランスのシトロエンは、かつて国民から愛された名車「2C(ドゥーシュヴォー)」の名前を冠した、小さくて安い電気自動車をつくると明言した。価格はおよそ1万5000ユーロ、日本円で280万円を切る水準を狙う。同社の責任者は、こんな趣旨のことを語っている。競合は新型を出すたびに、もっと大きく、もっと馬力を上げ、もっと画面を増やしてくる。でも自分たちのようなブランドこそ、逆の道を行くべきだ、と。彼が使った言葉は「レス・イズ・モア」。少ないほうが、豊かだ。

これは単なる懐古趣味ではない。電気自動車の時代になると、車を重くすることのツケがさらに重くのしかかるからだ。車が重ければ、それを走らせるための電池も大きくなる。電池が大きくなれば、車はさらに重くなる。重さが重さを呼ぶ悪循環に、「小さく、軽く、安く」というブレーキをかけられないか、という問いがそこにはある。

そして、この問いに半世紀前から答え続けてきた車が、実は日本にある。軽自動車だ。世界のどの国にもない、サイズと排気量を法律で厳しく区切った独自規格。長らく「ガラパゴス」と笑われてきたが、車が際限なく太っていく時代に、最初から「これ以上は大きくしない」と決められた車という見方をすれば、評価はまったく違ってくる。

次に車を見るとき、少しだけ「重さ」に目がいくはずだ

トヨタ カローラ(初代)

私たちは車を選ぶとき、燃費を気にし、色を選び、内装の質感を確かめ、安全装備の数を数える。けれど「重さ」を気にする人は、ほとんどいない。カタログの隅に小さく書かれた車両重量の数字を、真剣に読んだことのある人がどれだけいるだろう。

ところがその重さは、あなたの駐車場に入るかどうかを決め、ぶつかったときに外を歩く人がどうなるかを左右し、そしてこれからは、あなたが払う税金や駐車料金にまで効いてくる。半世紀かけて誰にも気づかれずに増えてきた600kgは、ただの数字ではなかった。

別に、明日から小さい車に乗り換えようという話ではない。大きい車が必要な人はいるし、それは責められることではない。ただ、次にディーラーの店先で、あるいは街を歩いていて、背の高い大きな車とすれ違うとき、これまでとは少しだけ違うものが見えるかもしれない。その車の中の安心と、その車の外を歩く人の安全が、実はシーソーのようにつながっていること。そして、世界のあちこちで人々が、そのシーソーをどう釣り合わせるか、いままさに悩み始めていること。

車は半世紀かけて太った。その重さの意味を、私たちはようやく量り始めたところだ。

参照元: トヨタ自動車 / ホンダ / フォルクスワーゲン 各社の歴代車種諸元(初代および現行モデルの車両重量・全長・全幅)、JATO Dynamics「世界の新車販売に占めるSUV比率」(2024年公表、2023年実績)、ICCT / JATO 欧州新車平均車重の推移データ、IIHS(米国道路安全保険協会)"Pedestrian crash risk and vehicle front-end geometry"(Monfort & Mueller, 2020)、European Transport Safety Council 車両設計と歩行者安全に関する報告(2023)、パリ市 大型車駐車料金に関する住民投票結果(2024年2月)/ フランス車両重量課税(マルス・オ・ポワ、2024年施行)、Top Gear シトロエン新型「2CV」構想に関する報道(2026年6月)

車選びドットコムマガジン編集部

豊富な中古車情報や画像&動画からピッタリのクルマを探せる中古車検索サイト「車選びドットコム」がお送りするマガジンです。
中古車が買いたくなるような、多数のオススメ中古車情報・クルマ雑学・トレンドニュース記事をお届け。あなたの気になる中古車も、これを読めばきっと見つかる!運命の一台に出会うきっかけづくりをお手伝いします。

公式サイト:https://www.kurumaerabi.com/
公式YouTube:https://www.youtube.com/c/kurumaerabicom
公式Twitter:https://twitter.com/kurumaerabicom

車選びドットコムマガジン編集部

ドリキン土屋圭市MC!

チャンネル登録はこちら

もっとみる 車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

カテゴリー

注目タグ

車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

デイリーランキング

2026.07.02UP

最新記事