中古車が買いたくなる自動車WEBマガジン

あなたの車の査定額は、見知らぬ国が「破産から立ち直ったか」で決まっている

あなたの車の査定額は、見知らぬ国が破産から立ち直ったかで決まっている サムネイル

スリランカの破産からの回復が、日本のあなたの中古車査定額を押し上げている——。遠い国の財政事情が国内の中古車相場にまで影響する仕組みを解説する。

Chapter
ガソリンスタンドに並んだ人々の国が、車の輸入を止めた
5年ぶりに扉が開いた瞬間、数字が異常な動きをした
なぜ「遠い国の需要」が、日本の私の査定額に届くのか
「破産から立ち直る」とは、車の値段が戻ることだった
あなたの車の査定額は、見知らぬ国が破産から立ち直ったかで決まっている サムネイル

車を手放すとき、私たちは値段がどう決まるかを、なんとなく知っているつもりでいる。年式と走行距離。傷やへこみ。人気の色かどうか。同じ車種の相場。査定の人がボンネットを開け、メーターを覗き、タイヤの溝を見て、最後に電卓を叩く。あの一連の動作の先に出てくる数字は、「自分の車の状態」がそのまま値段になったものだと思っている。

ところが、その数字を裏で動かしている要因のなかに、ほとんどの人がまったく想像しない一行が混じっている。

それは、インド洋に浮かぶ人口およそ2200万人の島国が、国家として破産状態から立ち直れたかどうか、という一行だ。

スリランカという国の名前を、日本の中古車の値段と結びつけて考えたことがある人は、まずいないと思う。紅茶、カレー、世界遺産。せいぜいそのあたりだろう。けれどこの島の財布の中身が、めぐりめぐって、日本のどこかの家のガレージにある一台の値段を押し上げている。今まさに、現在進行形で。

ガソリンスタンドに並んだ人々の国が、車の輸入を止めた

スリランカ ガソリンスタンドの長蛇の列

話は2022年にさかのぼる。

この年、スリランカは独立以来最悪と言われる経済危機に陥った。外貨、つまりドルなどの「外国にものを買うためのお金」が底を突いたのだ。燃料はほぼ100%を輸入に頼っているため、ガソリンスタンドには何日も続く長蛇の列ができた。料理用のガスが手に入らず、薪で煮炊きする家庭も出た。停電が国全土で頻発し、医薬品の輸入にも支障が出た。

5月には政府が事実上の「破産」を宣言。4月にはすでに対外債務のデフォルト(借金の支払い不能)を表明していた。7月には怒った市民が大統領公邸になだれ込み、邸内のプールで泳ぐ映像が世界に流れた。当時のラージャパクサ大統領は軍用機で国外へ脱出し、そのまま辞任した。一国の政権が、外貨不足という地味な経済の問題を起点に、文字どおり崩れたのである。

このとき、燃料や食料よりずっと前から止められていたものがある。自動車だ。

スリランカは新型コロナ禍の2020年3月、外貨を守るために自動車とバイクの輸入を制限していた。優先順位を考えれば当然だろう。限られたドルは、まず食料と燃料と薬に使わなければならない。車のような「すぐに命に関わらない高額品」は、後回しにされる。こうして、この島では約5年間、新しい車がほとんど入ってこなくなった。

ここで思い出してほしいのは、スリランカが昔から、知る人ぞ知る「日本の中古車の大得意先」だったという事実だ。日本の財務省の貿易統計によれば、2015年と2018年には、金額でみた日本の中古乗用車の輸出先として、スリランカが世界一だった年がある。コロンボの街には、日本で見慣れたスズキのワゴンRやトヨタのアクアが当たり前のように走っている。

その大得意先が、5年間、店のシャッターを下ろした。日本の中古車にとっては、太い販路が一本、ぷっつり消えたことを意味する。

5年ぶりに扉が開いた瞬間、数字が異常な動きをした

スリランカ 自動車輸入再開 中古車

転機は2025年に来た。

海外で働く人々が母国に送るお金(郷里送金)が増え、観光客が戻り、外貨準備高が回復してきた。国が再び「ドルを少し使う余裕」を取り戻したのだ。スリランカ政府は2025年2月1日、約5年ぶりに自動車とバイクの輸入を解禁した。これは単なる商売の再開ではなく、国家が経済危機から立ち直った証しとして報じられた。車の輸入再開が、国の回復のバロメーターだったのである。

すると、日本側の数字が、ふつうでは見ないような動き方をした。

ある統計によれば、日本からスリランカに輸出された中古乗用車は、2024年がわずか95台。それが2025年には6万台を超えた。前年比でいえば、数百倍という桁である。需要が「増えた」という言葉では足りない。5年ぶんの渇きが、扉が開いた瞬間に一気に流れ込んだ、と言うほうが近い。

金額でも異常だった。日本経済新聞の報道によれば、2025年上半期だけでスリランカ向けの輸出額は469億円に達し、禁輸前の2019年の通年実績(309億円)を、半年で軽々と超えてしまった。

一国の政府が「車を入れていいですよ」と通達を一枚出す。たったそれだけで、地球の反対側にある日本の中古車の流れが、目に見えて変わる。私たちが普段まったく意識しない遠い国の財政事情が、ある日スイッチのように切り替わり、日本のオークション会場の空気を変える。これがこの話のいちばん奇妙なところだ。

なぜ「遠い国の需要」が、日本の私の査定額に届くのか

ここで多くの人が引っかかるはずだ。スリランカで車が売れようが売れまいが、私が日本で軽自動車を手放すときの値段に、なぜ関係があるのか、と。

仕組みはこうだ。

日本で中古車を手放すと、その多くは「オートオークション」という業者向けの競りの市場に流れる。販売店が下取りした車も、ここに集まる。全国の中古車販売店、そして海外向けに車を買い付ける輸出業者が、同じ会場で同じ車を取り合う。値段は、欲しい人が多ければ上がる、ただそれだけの市場原理で決まる。

つまり、スリランカ向けに車を買い付ける輸出業者がこの会場で「もっと高くても買う」と札を入れれば、その分だけ相場全体が押し上がる。輸出業者と競り合う日本国内の販売店も、つられて高い値で買わざるを得なくなる。あなたの車を下取りする販売店は、その高くなった仕入れ値を計算したうえで、あなたに提示する査定額をはじく。スリランカの需要は、こうして何段階かを経て、日本のあなたの査定票に静かに反映される。

実際、日本の中古車オークションの平均成約単価は、近年たびたび過去最高を更新している。最大手の競売会社では、2026年1月の平均成約単価が前年同月比7.7%増の134万6千円となり、過去最高を更新した。背景として各報道が共通して挙げるのが、円安と、それによって勢いづいた輸出業者の旺盛な買い付けだ。スリランカはその買い手の一つにすぎないが、5年ぶんの渇きを抱えて戻ってきた大口が一つ増えれば、競りの熱は確実に上がる。

そして、この熱には日本に暮らす私たちにとっての裏面がある。日経新聞の報道によれば、輸出業者に「買い負ける」局面が続くなかで国内では手ごろな中古車が減り、100万円台で買えるような車が市場から消え始めている。中古車販売店の倒産件数は13年ぶりの高水準になったとも報じられた。海の向こうの需要が高い値を吊り上げるほど、日本で安い中古車を探している人の選択肢は細っていく。査定で得をする側と、買うときに損をする側は、しばしば同じ私たちなのだ。

「破産から立ち直る」とは、車の値段が戻ることだった

この一連の流れを少し引いて眺めると、ふだん抽象的にしか聞こえない言葉が、急に手触りを持ち始める。

「外貨準備高」。ニュースで流れても、多くの人にとっては自分と無関係な専門用語だろう。けれどスリランカの人々にとって、それは「いつになったら新しい車を買えるのか」という、極めて具体的な生活の問いだった。国にドルがなければ、車は5年でも入ってこない。国がドルを取り戻せば、扉が開く。国家の財布の中身が、そのまま一台の車の有無に直結する。お金の話が、こんなにもむき出しに「ものの動き」に変換される場面は、そう多くない。

ただし、扉が開いたからといって、誰もが車を買えるようになったわけではない点も書いておきたい。スリランカは輸入再開と同時に、乗用車に20%の関税と18%の付加価値税をかけ、高額な車には最大で価格の倍以上にもなりうる奢侈税まで上乗せした。通貨も弱い。英BBCは解禁の報道で、「では、いったい誰が車を買えるのか」と現地の人の声を伝えている。5年待った先に待っていたのは、手の届かない値札だったかもしれない。さらに、かつて日本車の独壇場だったこの市場には、いま中国製の電気自動車が攻勢をかけている。「日本の中古車の大得意先」という関係が、これからも続く保証はどこにもない。

それでも、いま日本で車を手放そうとしているあなたの査定額には、この島の物語がほんの少しだけ織り込まれている。あの査定の人が電卓を叩くとき、その数字の奥には、コロンボのガソリンスタンドに並んだ人々がいて、プールに飛び込んだ抗議者がいて、5年ぶりにコロンボ港へ船から降ろされる中古のワゴンRがいる。

車の値段は、車だけでは決まらない。それは世界の景気や、遠い国の政権の浮き沈みや、為替の数字と、見えない糸でつながっている。次に「査定」という言葉を聞いたとき、その数字を本当に動かしているのは誰なのか、少しだけ視線を遠くへ伸ばしてみてほしい。案外その糸の先は、地図で探さないと見つからないような、遠い島までのびているかもしれない。

参照元: - ジェトロ(日本貿易振興機構)「約5年ぶりに自動車・バイクを輸入再開(スリランカ)」「スリランカ、約5年ぶりに自家用車・バイクの輸入も再開」 - ジェトロ「2025年の日本からの中東向け自動車輸出額が過去最高、アフリカ向け輸出台数も過去最多」 - 日本経済新聞「スリランカ向け中古車輸出が最高水準、『新古車の楽園』再び 日本の相場に上昇圧力」「スリランカに中国EV流入」「中古車高騰、消える『100万円台』」 - BBC News「Sri Lanka eases vehicle import ban, but can people afford a car?」、BBC日本語版「スリランカの大統領と首相が辞意」 - nippon.com「スリランカの経済危機の背景」、アジア経済研究所『アジア動向年報』2022年のスリランカ - 一般社団法人 日本自動車会議所「AA主要4事業者の2026年1月実績、平均成約単価が高騰」、日刊自動車新聞「USS、2025年9月AAの平均成約単価が過去最高」

車選びドットコムマガジン編集部

豊富な中古車情報や画像&動画からピッタリのクルマを探せる中古車検索サイト「車選びドットコム」がお送りするマガジンです。
中古車が買いたくなるような、多数のオススメ中古車情報・クルマ雑学・トレンドニュース記事をお届け。あなたの気になる中古車も、これを読めばきっと見つかる!運命の一台に出会うきっかけづくりをお手伝いします。

公式サイト:https://www.kurumaerabi.com/
公式YouTube:https://www.youtube.com/c/kurumaerabicom
公式Twitter:https://twitter.com/kurumaerabicom

車選びドットコムマガジン編集部

ドリキン土屋圭市MC!

チャンネル登録はこちら

もっとみる 車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

カテゴリー

注目タグ

車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

デイリーランキング

2026.07.05UP

最新記事