中古車が買いたくなる自動車WEBマガジン

ゲームソフトが「消えた」のと同じことが、あなたの車にも起きている。買ったのに、実は借りているだけの部分がある

ゲームソフトと車のサブスクリプション化の関係を象徴するサムネイル画像

数百万円を出して「買った」はずのあなたの車。ところが、その車の中にはハードウェアはあるのに、お金を払わなければ使えない機能が潜みはじめている。ゲームや音楽と同じ「所有から利用へ」の変化が、車でも起きているのだ。最新の自動車業界の動きを解説する。

Chapter
「その機能、月2500円で貸してます」と言われた日
あなたの知らないうちに、車の中身が書き換わる
中古で手放したとき、機能はついていかない
「修理する権利」という反撃が始まっている
それでも私たちは、次の誰かに車を渡していく

先日、こんなニュースが流れた。ソニーが、2028年1月以降に出すプレイステーション向けの新作ゲームについて、ディスクの生産を順次やめていくと発表したのだ。これからのゲームは、原則としてダウンロードで買う。棚に並ぶあの四角いパッケージが、少しずつ姿を消していく。

驚いた人もいれば、「もうそんな時代だよね」とうなずいた人もいるだろう。実際、プレイステーション向けソフトのダウンロード比率は、2024年度で76%まで来ている。ソニーの決算資料が公表している数字だ。10本売れれば、7本以上は最初から円盤ではない。ディスクをやめるという判断は、市場の実態を追認したにすぎない。

これは音楽が20年かけて歩いた道とそっくりだ。CDを買ってラックに並べていた時代から、今は月額を払って聴き放題を使う時代になった。世界の音楽業界では、2024年に収益の69%がストリーミングから生まれている。国際的な業界団体IFPIの集計だ。私たちは「モノを買って持つ」ことから、「使う権利にお金を払う」ことへ、静かに乗り換えてきた。

ここまでは、多くの人が肌で知っている変化だと思う。

ところが、まったく同じことが、いま自動車の世界で起きている。しかも、CDやゲームソフトよりもずっと分かりにくい形で。あなたが数百万円を出して「買った」はずの車の中に、実は「借りているだけ」の部分がまぎれ込みはじめている。

BMWシートヒーターサブスクリプションの解説に使うイメージ画像

「その機能、月2500円で貸してます」と言われた日

話を分かりやすくするために、2022年の夏に世界中で炎上したある出来事から始めたい。

ドイツの自動車メーカーBMWが、韓国で、シートを温めるヒーター機能を月額18ドル、日本円でおよそ2500円のサブスクリプションとして売っていることが発覚した。座席を温める、あのスイッチだ。

多くの人が最初に思ったのは、「後付けの部品を売っているのか」ということだった。ところが違った。ヒーターの部品は、対象になったBMW車の約9割に、最初から組み込まれていたのだ。座席の中には、ちゃんと電熱線が通っている。工場から出てきた時点で、温める能力は車にそなわっている。ただ、それをソフトウェアで「使えない」状態にしておき、月額を払った人にだけ電源を入れる。そういう仕組みだった。

つまり、あなたはヒーター付きの座席を積んで走っている。でも、お金を払わなければ温まらない。積んでいるのに、使えない。

批判は世界中に広がった。BMWの販売担当役員はのちに「利用者は二重に払わされていると感じた。実際には違うのだが、そう受け取られたことが現実だ」と語り、2023年にこのヒーター月額課金をやめた。ただし、運転支援や駐車支援といったソフトウェア寄りの機能については、これからも「あとから買える機能」として続けていく方針だとも述べている。引っ込めたのはヒーターだけで、考え方そのものは残っている。

似た話は他社にもある。メルセデス・ベンツは2022年、一部の電気自動車で「加速性能アップグレード」というサービスを始めた。年額でお金を払うと、モーターの出力が2割ほど上がり、時速100キロまでの到達時間が1秒近く縮まる。エンジンをいじるわけでも、部品を交換するわけでもない。車がもともと持っていた力を、ソフトウェアのロックを外して解放するだけだ。

テスラはもっと早くからこれをやっている。標準グレードとして売られている車に、実は上位グレードと同じ容量の電池を積んでおきながら、ソフトウェアで2割ほど使えなくしておく。あとから料金を払えば、その分の航続距離が開放される。加速を速くするアップグレードも、数千ドルで買える。

ここで一度、立ち止まってほしい。

私たちは「車を買う」とき、鉄とゴムとガラスでできた一台の乗り物を、まるごと手に入れたつもりでいる。ボンネットの中も、座席の下も、全部自分のものだ、と。ところが実際には、車の中には「ハードは載っているけれど、権利は買っていない」部分が生まれている。あなたが所有しているのは車体であって、その車体が本来できることの全部ではない。

ゲームで言えば、ディスクは手元にあるのに、遊べるのは半分のステージだけ。残り半分は月額を払った人向け。そんな状態が、車のあちこちで静かに始まっている。

あなたの知らないうちに、車の中身が書き換わる

もうひとつ、物理的なモノにはなかった、新しい感覚がある。それは「買ったあとに、中身が変わる」ということだ。

昔の車は、買った瞬間が性能のピークで、あとは少しずつくたびれていくだけだった。良くも悪くも、買った時のままだった。ところが今の車は、スマートフォンと同じように、通信でソフトウェアが更新される。専門的にはOTA、無線を通じたアップデートと呼ばれる。夜のうちに、あなたの車のプログラムが書き換わっていることがある。

これは便利な仕組みだ。不具合が直る。地図が新しくなる。使い勝手が良くなる。実際、その恩恵は大きい。

だが、更新は必ずしも「良くなる」方向だけではない。

テスラでは2019年、火災の事例を受けて、通信で一部の車の電池の充電速度や航続距離を制限したことがあった。オーナーからすれば、ある日を境に、走れる距離が勝手に短くなったように感じられる。アメリカでは1743人のオーナーが集団訴訟を起こし、2021年に総額150万ドルで和解している。一人あたり600ドル前後だ。制限は数か月から1年近く続いたとされる。

安全のための措置だったという説明はあるし、その是非をここで裁くつもりはない。ここで注目したいのは、もっと素朴なことだ。あなたの車の能力が、あなたの知らないところで、あなた以外の誰かの判断によって変わりうる、という事実である。

家電にたとえるなら、買ってきた冷蔵庫が、ある朝メーカーの都合で「今日から冷える温度を少し上げます」と勝手に決めてくる、ようなものだ。かつての「モノを所有する」という感覚には、なかった話だ。所有していたはずのモノが、実は遠くの本社とつながっていて、そこから中身をいじられる。私たちが車について当たり前だと思っていた「買ったら自分のもの」という前提が、ここでも少しずつずれてきている。

中古で手放したとき、機能はついていかない

中古車市場と機能の継承問題を象徴するイメージ画像

そして、この記事を読んでいる人にいちばん関係が深いのが、次の話だ。中古のことである。

日本の乗用車は、平均しておよそ13年使われる。自動車工業会や自動車検査登録情報協会の統計では、13.3年前後という数字が並ぶ。一方で、一人の持ち主が一台を持ち続ける期間は、平均7年ほどだ。単純に割り算をすれば、一台の車はおよそ二人の手を渡って一生を終える計算になる。あなたが今乗っている車も、いつかは誰かの中古車になる。あなたが今乗ろうとしている車も、たいてい誰かの二台目、三台目だ。

日本人は昔から、この「次の人に渡す」ことを前提に車と付き合ってきた。だからこそ丁寧に乗り、記録簿を残し、程度の良い中古が世界中で高く売れる。ところが、機能をソフトウェアで貸し出す仕組みは、この「渡す」という文化と、相性がとても悪い。

たとえば、こういうことが実際に起きている。イギリスで、ある人が2020年式のBMWを中古で買った。買った時は通信サービスがちゃんと使えていた。ところが数か月後、突然その機能が止まり、年額の支払いを求められた。調べてみると、サービスの契約期間は「最初にその車が登録された日」から数えられていた。前の持ち主が使っていた分だけ、残り期間が減っていたのだ。中古で買った人は、自分が使っていない時間の分まで、知らないうちに削られていた。

有料で解放した機能が、次の持ち主に引き継がれるかどうかも、契約の形しだいだ。一括で買って車体に紐づけた機能は引き継がれることが多い。だが、毎月払うサブスクの形で契約していた機能は、多くの場合、最初に契約した人のアカウントに紐づいている。車が売られても、機能は前の持ち主のもとに置き去りになる。次のオーナーは、同じ座席のヒーターを使うために、もう一度お金を払う。

アメリカのGMが提供する車載サービスでも似た問題がある。新車から一定期間は無料でも、中古で買った人は残りの期間しか引き継げなかったり、前の持ち主の協力がないと移せなかったりする。

これは、CDや本を友達に譲るのとは、まるで違う世界だ。読み終えた本は、あげれば相手のものになる。ところが「使う権利」は、モノのようには手渡せない。ゲームがダウンロード版だけになると中古で売れなくなるのと、根っこは同じだ。あなたが払ったお金は、あなた一代限りで消えていく。

「修理する権利」という反撃が始まっている

こうした流れに、黙って乗せられているわけではない、という動きも出てきている。

アメリカでは「修理する権利」を求める法律の動きが急速に広がっている。2025年には、農機具や電子機器を自分で、あるいは町の修理屋で直せるようにすべきだという法案が、ついに全米50州すべてで提出または審議されるところまで来た。すでに9つの州で成立している。

なかでも象徴的なのが、オレゴン州が2024年に成立させた、部品の「ひも付け」を禁じる規定だ。メーカー純正でない部品に交換すると、ソフトウェアがわざと機能を制限する。そういうやり方を禁じる、全米で初めての法律だった。「あなたのモノなのだから、あなたが直せるべきだ」という、当たり前に聞こえて、実はいま揺らいでいる原則を、法律で取り戻そうとしている。

日本ではまだこうした議論は大きくない。だが、車がスマートフォン化していく流れは世界共通だ。遠からず、私たちも「買ったのに、直せない」「買ったのに、使えない」という場面に、もっと出くわすようになるだろう。

それでも私たちは、次の誰かに車を渡していく

ゲームのディスクが消える。音楽のCDが消える。多くの人にとって、それは便利さと引き換えの、受け入れやすい変化だった。棚は片づき、いつでもどこでも手に入る。失ったものは、あまり意識されなかった。

車で起きているのは、それと同じ変化だ。ただし、車は数百万円のモノで、10年以上使い、平均して二人の手を渡る。ゲームソフト一本とは、金額も、時間も、関わる人の数も、桁が違う。だからこそ、「買った」と「借りた」の境目が曖昧になることの重みも、けた違いに大きい。

次に車を買うとき、あるいは手放すとき、少しだけ思い出してほしい。あなたが手に入れるのは、鉄とゴムでできた車体だけなのか、それとも、その車が本来できることの全部なのか。あなたが払ったお金でついた機能は、次の持ち主にちゃんと渡るのか、それともあなた一代で消えるのか。

車は昔から、家族のあいだで、他人のあいだで、静かに受け継がれてきた道具だった。親の車を継いだ人、程度の良い中古を選んだ人、いつか自分の車を誰かに譲る人。その長い受け渡しのなかで、私たちは知らず知らず「モノを所有する」という感覚を分かち合ってきた。

その感覚そのものが、いま書き換えられようとしている。ディスクが消えたのと、同じ静けさで。

参照元: ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation向けディスク生産に関する発表」(2026年7月)、ソニーグループ2024年度決算資料(ダウンロード比率76%)、IFPI Global Music Report 2025(世界の音楽ストリーミング収益比率)、日本レコード協会「日本のレコード産業2024」、The Verge / Forbes 各報道(BMWシートヒーター月額課金と撤回、2022〜2023年)、The Verge / Car and Driver 各報道(メルセデス・ベンツ加速性能アップグレード、2022〜2023年)、Car and Driver / Motor1 各報道(テスラのソフトウェアによる性能・航続距離アンロック、2019年〜)、TechSpot / PCMag 各報道(テスラ電池制限をめぐる集団訴訟・150万ドル和解、2021年)、Honest John(中古BMWの通信サービス契約が初回登録日起算だった事例、2026年)、GM Authority(OnStarの中古移行、2025年)、日本自動車工業会(乗用車平均使用年数13.32年、平均保有期間7.2年)、自動車検査登録情報協会(平均使用年数13.35年、令和7年)、IDEAS FOR GOOD / EnviX 各記事(米国 Right to Repair 法制化の動向、オレゴン州のパーツペアリング禁止、2024〜2026年)

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