旅行先で借りた「わ」ナンバーの車は、3年後にあなたの家の前に停まっているかもしれない
沖縄でも北海道でも、旅の入口で手渡される「わ」ナンバーのレンタカー。その一台は数年後、中古車として誰かの家の前に停まるかもしれない——借りる車と買う車を結ぶ一本の流れの物語。
- Chapter
- レンタカーは「使い切る道具」ではなく「数年で手放す資産」
- 「元レンタカー」は避けられがちで、でも整備の記録は厚い
- そのパイプが、数年前に一度詰まった
- 「車が借りられない」と「中古車が高い」は、同じ絞りから来ていた
- 流れが戻ると、今度は「投げ売り」になる
- 旅先のあの車を、少し違う目で見てみる
旅先で数日だけ借りた、名前も覚えていないレンタカー。あの一台が、数年後にあなたが買う中古車になっているかもしれない。旅の道具と、暮らしのために選ぶ資産。まるで別物に見える二つは、実は同じ一台であることがある。
思い返してほしい。沖縄でも北海道でも、旅の始まりはたいてい同じ光景だ。空港を出て、送迎バスに揺られ、レンタカーの営業所のカウンターで免許証を出す。渡されたキーで動かすのは、ナンバープレートに「わ」と書かれた、どこにでもある白いコンパクトカーか軽自動車。数日走って、給油して返して、旅は終わる。その車のことを、あなたは二度と思い出さないだろう。
ところが数年後、あなたが「そろそろ車を買い替えようか」と中古車サイトを眺めているとき、画面の向こうにいるのは、まさにあの車かもしれない。旅先で数日だけ付き合ったレンタカーと、これから何年も乗るつもりで探している中古車は、しばしば同じ一台なのだ。
この話は、車が好きかどうかとはあまり関係がない。レンタカーと中古車という、ふだんは別の棚に並んでいると思っているものが、実は一本のパイプでつながっている。そのパイプの流れが数年前に一度詰まったせいで、「旅行先で車が借りられない」現象と「中古車が高い」現象が、ほとんど同じ根っこから同時に起きていた。旅と買い物という、まるで遠い二つの出来事が、裏側で手を握っていた話である。
レンタカーは「使い切る道具」ではなく「数年で手放す資産」
まず、多くの人が持っているイメージを一つ壊しておきたい。レンタカーは乗りつぶすまで使われる、と思っていないだろうか。ボロボロになるまで貸し出されて、最後はスクラップになる、という印象だ。
実際は逆に近い。レンタカー会社にとって、車は「数年で入れ替える資産」である。たとえばタイムズカーを運営するパーク24は、初度登録からおおよそ3〜4年たった車両を中古車市場へ売却する、と自社で説明している。新車で買い、数年きっちり働かせ、まだ十分に価値が残っているうちに売る。この回転が事業の前提になっている。
売られた車には、業界の呼び名がある。「レンタアップ」や「レンタカー落ち」だ。あの「わ」ナンバーだった車は、名義が書き換えられ、ナンバーも普通の番号に付け替えられて、中古車として市場に戻ってくる。そして誰かの通勤の足になり、子どもの送り迎えの車になる。
つまり、レンタカー会社は「車を貸す会社」であると同時に、「数年落ちの中古車を大量に生み出す供給元」でもある。私たちは旅先でその車の最初の数年に立ち会い、中古車店でその車の次の人生の入口に立ち会っている。同じ川の、上流と下流にいるだけなのだ。
「元レンタカー」は避けられがちで、でも整備の記録は厚い
ここで一つ、小さな逆転がある。
中古車を探す人の多くは、「元レンタカー」と聞くと少し身構える。理由は想像がつく。年式のわりに走行距離が多い。不特定多数の人が運転してきたから、内装や外装に細かい傷や使用感が残りやすい。「誰がどう乗ったか分からない」という漠然とした不安もある。だから元レンタカーは、同じ年式・同じ車種の一般的な中古車より安く出ることが多いとされる。複数の中古車事業者は、その差をおおむね1〜2割ほどと説明している(この「1〜2割」は各社の経験則で、公的な統計で裏づけられた数字ではない【未確認】)。
ところが、敬遠される理由のすぐ隣に、見落とされがちな長所がある。整備の記録だ。
レンタカーとして貸し出される乗用車には、6か月ごとの法定点検が義務づけられている。さらに普通車のレンタカーは、車検の間隔が一般の自家用車と違う。自家用の普通乗用車は新車から3年、その後は2年ごとに車検を受ければよいが、レンタカーは初回が2年、それ以降は毎年車検を受けなければならない(軽自動車のレンタカーはこの「毎年」の対象ではなく、扱いが異なる)。
言い換えると、元レンタカーは「他人がたくさん乗った車」であると同時に、「他人が乗るからこそ、法律で頻繁に点検と車検を義務づけられ、記録が残っている車」でもある。個人が所有していれば、6か月点検を律儀に受ける人はそう多くないだろう。傷の多さと引き換えに、その車が「いつ、どこを、どう整備されたか」の履歴は、個人の車よりむしろ厚い。安さの理由と安心の理由が、同じ一台に同居している。
なお、店頭で「これは元レンタカーです」と分かるのは偶然ではない。中古車の販売現場では、業界の自主ルールによって、車の使用歴(自家用・営業用・レンタカーなどの別)を値札に表示することが求められている。元レンタカーであることは、隠されるどころか、明記される決まりになっている。
そのパイプが、数年前に一度詰まった
ここまでが「平常運転」の話だ。レンタカーとして数年働いた車が、中古車市場に流れていく。この循環は、需要と供給がなだらかに回っている限り、私たちの目には見えない。
見えるようになったのは、循環が壊れたときだった。
2020年、旅行需要が一気に消えた。人が動かなくなり、レンタカーは営業所の駐車場で眠るだけの、コストのかかる資産になった。そこで各社が取った手が、保有していた車を売ることだった。ある業界紙は、レンタカー各社が保有台数を減らす決断をし、車を売却して、厳しくなった資金繰りに充てたケースが多く見られた、と記録している。使わない資産を現金に換える、経営としては自然な判断だ。
ところが、この「売る」という行為には二つの顔があった。
一つは、レンタカーの手持ちが減ったこと。もう一つは、その売却によって、数年落ちの中古車がいつもより多く市場に出たこと。パイプの入口を絞る動きが、出口では一時的な放出になっていた。
そして数年後、旅行需要が戻ってきたとき、話がねじれる。
「車が借りられない」と「中古車が高い」は、同じ絞りから来ていた
需要が戻れば、レンタカー会社は減らした車を買い戻せばいい。理屈ではそうだ。ところが、買い戻せなかった。
タイミングが悪かった。世界的な半導体不足で新車の納期が延び、人気車種では1年待ちも珍しくない状況が続いた。おまけに新車が入りにくいと、そのしわ寄せで中古車の相場まで上がった。中古車オークションの平均成約単価は、この数年で過去最高の水準を更新し続けている。減らした車を、新車でも中古でもすぐには埋められない。パイプの入口が、絞られたまま固まってしまった。
結果として何が起きたか。旅行先では「車が借りられない」現象が表に出た。沖縄では2022年の夏、コンパクトカーが1日3万円を超える例まで報じられた。県内のレンタカー協会加盟社の保有台数は、2023年春にはコロナ前のおよそ6割まで落ち込んでいた。北海道でも、ハイシーズンに予約が取れない事態が起きた。旅の入口でいきなり「動く手段がない」という壁にぶつかった人が、大勢いたはずだ。
同じころ、車を買おうとした人は「中古車が高い」という壁にぶつかっていた。新車が入らず、中古の相場が上がり、狙っていた一台に手が届かない。
この二つは、ニュースでは別々の話題として流れた。旅行のニュースと、家計のニュース。けれど根っこは一つだった。レンタカーから中古車へ流れるパイプが細くなり、上流(借りられる車)も下流(買える中古車)も、同時に痩せていた。旅先で車が借りられなかった人と、実家の親の車を買い替えられなかった人は、まったく無関係の他人のようでいて、同じ一本の詰まりの、上と下にいたのである。
流れが戻ると、今度は「投げ売り」になる
念のため付け加えておくと、この詰まりは永遠ではない。
沖縄では、その後むしろ供給が戻り、時期によっては2泊3日で数千円台の格安プランが並ぶまでに反転した、という報道もある。パイプの流れは、絞られたり、あふれたりを繰り返す。だから「今もレンタカーは借りられない」と受け取るのは正確ではない。ここで覚えておきたいのは特定の年の相場ではなく、「レンタカーと中古車が一本でつながっていて、その流れは意外なほど大きく揺れる」という構造のほうだ。
そしてこの揺れは、車を持つ人にも、持たない人にも触れてくる。旅行のたびにレンタカーを借りる人は、上流でこの流れに乗っている。中古車で車を買う人は、下流でこの流れを受け取っている。どちらでもない人でも、観光地の宿や飲食店が「レンタカーが足りなくて客が動けない」と困れば、その土地の経済に響く。車という一台のモノは、思っているよりずっと多くの人の生活に、細い管でつながっている。
旅先のあの車を、少し違う目で見てみる
次にどこかへ旅行して、営業所で「わ」ナンバーの車のキーを受け取ったとき、少しだけ違う想像をしてみてほしい。
この車は、あと数年で誰かの家の前に停まる。半年ごとに点検を受け、毎年車検を通しながら、記録を積み上げていく。やがて名義が変わり、ナンバーが付け替えられて、中古車サイトのどこかに並ぶ。それを買うのは、見知らぬ誰かかもしれないし、数年後のあなた自身かもしれない。
私たちは、車を「借りる」と「買う」をまったく別の行為だと思っている。旅の道具と、暮らしの資産。けれど市場の側から見れば、それは一台の車の、前半生と後半生でしかない。旅先で数日だけ触れたあの車の履歴の続きを、いつか自分が引き受けている。そう考えると、名前も覚えなかったはずのレンタカーが、少しだけ他人事でなくなる。
「借りる」と「買う」の間に一本の管が通っている。それを知っているだけで、旅行先で車が高い理由も、中古車が値上がりした理由も、これから自分が中古で車を選ぶときの見方も、以前より少しだけくっきり見えるようになるはずだ。
参照元: 国土交通省 中国運輸局「レンタカーについて」(「わ」「れ」ナンバー・有償貸渡の定義)、国土交通省「点検整備の種類」・自動車登録ポータルサイト「自動車検査証の有効期間」(レンタカー乗用車の6か月点検・車検間隔)、自動車公正取引協議会 中古車規約関連資料(プライスボードでの使用歴表示)、パーク24株式会社 ニュースリリース「『タイムズカー』の中古車販売サービスを開始」(2015年3月2日)・タイムズ ユーズドカー販売サイトFAQ(3〜4年での売却)、日本経済新聞「沖縄でレンタカー不足深刻 コンパクトカー1日3万円超も」(2022年7月18日)、琉球新報(沖縄県内レンタカー保有台数の推移に関する報道、2023年)、観光経済新聞「交通トレンド分析247 沖縄本島のレンタカー不足がほぼ解消」(2024年、鳥海高太朗)、矢野経済研究所 レンタカー市場に関するプレスリリース(2023年10月)、全日本自動車リサイクル事業協同組合連合会・日刊自動車新聞(中古車オークション平均成約単価に関する報道)、WEB CARTOP(半導体不足による新車納期遅延・レンタカー増車困難に関する報道、2021年・2023年)、オークネット・各中古車事業者の解説記事(レンタアップ車の価格傾向・特徴。価格差の数値は各社の経験則)























