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電気自動車の充電で、あなたは長いあいだ「電気」ではなく「時間」を買わされていた。その裏にあったのは、八百屋の量りと同じ、はかりの国のルールだった

電気自動車の充電と計量法の関係 記事サムネイル

EV充電の料金はなぜ「時間」で決まっていたのか。その背後にあったのは、計量法という「はかりの国のルール」だった。電気自動車の充電が「量り売り」できず、時間課金にならざるを得なかった理由を、法律と制度の面から紐解く。

Chapter
「時間で買う」という不思議
世の中の「はかり」は、勝手に売れない
EVの充電が、この仕組みに引っかかった
「電気の量り売り」を、国が正式に認めた
新しいモノが、古い信頼の仕組みを試している
電気自動車の充電と計量法の関係 記事サムネイル

電気自動車に乗っている人でも、意外と気づいていないことがある。外の充電スタンドで払っているお金は、長いあいだ「入れた電気の量」ではなく「充電にかかった時間」で決まっていた。

ガソリンなら、当たり前のように「入れた量」で払う。30リットル入れれば30リットル分の値段になる。ところが電気は違った。急速充電器の前に立ち、30分で切れるタイマーの料金を払う。同じ30分でも、車種やバッテリーの状態によって、実際に入る電気の量はまったく違う。たくさん入る人もいれば、あまり入らない人もいる。それでも払う額は「時間」で決まっていた。

言い換えれば、電気を「量り売り」できていなかった。八百屋なら量って売る、ガソリンなら量って売る。それがなぜか、電気自動車の充電だけは長いこと「時間貸し」だった。

なぜこんな妙なことになっていたのか。理由をたどっていくと、車の技術の話ではまったくなくなる。行き着く先は、スーパーの量り売りのはかりや、ガソリンスタンドの給油メーター、そして家の壁についている電気メーターまでを、静かに縛っている一つの古い法律だった。

「時間で買う」という不思議

まず、どのくらい妙なことだったのかを確認しておきたい。

たとえば大きなバッテリーを積んだ新しいEVと、少し前の小さなバッテリーのEVが、同じ充電器に同じ30分つないだとする。新しい車のほうが一度にたくさんの電気を受け取れるので、30分でぐっと多く入る。古い車はあまり入らない。にもかかわらず、時間課金だと二人が払う額は同じになる。

肉を「1グラムいくら」ではなく「レジに並んだ時間いくら」で買わされているようなものだ。手際よくたくさん取れた人が得をして、そうでない人が損をする。誰が考えても変な話に思える。

しかしこれは、充電を運営する会社が意地悪をしていたわけではない。むしろ会社のほうが、「電気の量で売りたくても売れない」事情を抱えていた。そこに、これから話す「はかりの法律」が関わってくる。

世の中の「はかり」は、勝手に売れない

はかりの検定と計量法の解説用イメージ

私たちは普段まったく意識しないが、商売で使う「はかり」には国のお墨付きが要る。

たとえば、お肉屋さんやスーパーの量り売りコーナーにある、あの料金がパッと表示されるはかり。あれは誰でも好きに買ってきて店先に置いていいわけではない。取引に使うはかりは、都道府県などがおこなう検定に合格したものでなければならず、しかも一度合格すればおしまいではなく、おおむね2年に1回、正しく量れているかの定期検査を受けることが法律で決められている。合格の印がないはかりで商品を量って売ることは、法律違反になる。

対象は肉や魚のはかりだけではない。ガソリンスタンドの給油メーターもそうだ。あの「30リットル」と表示される機械は、決められた期間ごとに検定を受けなければならない。石油を配達する軽トラックが灯油を家まで届けにくるとき、あのホースの先についている量りも同じ仕組みで管理されている。

さらに身近なところでは、家の外壁についている電気メーター。あれにも実は有効期限があり、期限がくると電力会社がやってきて新しいものに取り替えていく。日本電気計器検定所という専門の機関が、この電気メーターだけで年間およそ600万台もの検定をこなしているという。私たちが毎月払う電気代の「量」は、こうして検定を通った計器がはじき出した数字にもとづいている。

これらをまとめて縛っているのが「計量法」という法律だ。中心にある考え方はとてもシンプルで、こういうものだ。

お金や証明にかかわる「量」を測る道具は、国がお墨付きを与えたものでなければ使ってはいけない。

裏を返せば、私たちは日々、「この量りは正しい」という信頼を、自分で確かめることなく受け取っている。肉の値段も、ガソリンの量も、電気代も、いちいち自分で計り直したりはしない。誰かが検定してくれた「はかり」を信じて、その上に生活が成り立っている。計量法は、その見えない信頼を支える骨組みなのだ。

ちなみに、家庭の体重計やキッチンスケールは、この検定の対象にはなっていない。あれは「家庭用」として別枠で、製造する会社に品質の基準を守らせる仕組みになっている。だから体重計の数字は健康の目安にはなっても、学校の健康診断の正式な記録には使えないし、キッチンスケールで量った重さを商品の内容量として表示することもできない。「はかった値を、お金や公式の証明に使うかどうか」で、ここまでルールがはっきり分かれている。

EVの充電が、この仕組みに引っかかった

さて、話をEVの充電に戻す。

充電スタンドで電気を「量り売り」しようとすると、当然、その充電器の中に「何キロワットアワー入れたか」を測る計器が必要になる。ところが、その計器で測った数字をそのまま料金の計算に使うなら、それは「取引に使うはかり」ということになる。つまり計量法の世界に入ってしまう。

すると、充電器の一台一台に検定に合格した電力量計を積み、しかも数年おきに再検定を受け続けなければならない、という重い条件がついてくる。全国に何万口と広げていきたい充電器に、いちいちその手間とコストをかけるのは現実的ではなかった。

そこで各社が選んだ抜け道が「時間課金」だった。電気そのものを量って売るのではなく、「充電設備を使った時間」に対して料金をもらう。これなら電気の量を計量法にのっとって測る必要がない。読売新聞の解説でも、この時間課金は電気の売買ではなく「設備の利用料」として整理されていた、と説明されている。

つまり、EVの充電が長いこと「時間貸し」だったのは、技術が未熟だったからでも、事業者がケチだったからでもない。「電気を量り売りする」という発想を、はかりの国のルールがまだ受け止めきれていなかったからだ。新しいモノの登場に、古い仕組みが追いついていなかった、というだけの話なのである。

「電気の量り売り」を、国が正式に認めた

EV充電と特定計量制度の解説用イメージ

この行き詰まりを解いたのが、2022年4月に始まった「特定計量制度」という新しい仕組みだ。

ざっくり言えば、「事前に国へ届け出て一定の条件を満たせば、検定を受けていない充電器の内蔵計器で測った電力量でも、料金の計算に使ってよい」という、計量法のルールをEV充電向けにゆるめる制度である。厳格な検定を一台ずつ通さなくても、電気を「量り売り」できる道が、ここでようやく開いた。

制度ができてから、事業者の動きは段階的に進んだ。まず自宅やマンション向けの普通充電で、使った電力量で課金するサービスが2023年から登場しはじめる。そして高速道路のサービスエリアなどに急速充電器を広げている大手のe-Mobility Powerが、実証実験を重ねたうえで、2026年4月から全国のおよそ100か所の直営スポットで、電力量にもとづく課金を本格的に導入した。高速道路では1キロワットアワーあたり143円、一般道では110円といった具合に、いよいよ「入れた電気の量」で払う形が、日本でも普通の景色になりはじめている。

面白いのは、海外ではこれがずっと前から当たり前だったことだ。欧州の大きな充電ネットワークは2020年ごろにはすでに電力量あたりの料金に移っていたし、アメリカのテスラの充電網などは最初から電力量で課金していた。ガソリンを量って売るのと同じ感覚で、電気も量って売る。世界の多くの場所では、それが自然な出発点だった。日本だけが、はかりの国の丁寧すぎるルールを律儀に守った結果、ぐるっと遠回りをして、ようやく同じ場所にたどり着いたことになる。

新しいモノが、古い信頼の仕組みを試している

ここまでの話を、車に興味がない人の生活に引き寄せて整理してみたい。

私たちが安心して量り売りの肉を買い、ガソリンを入れ、毎月の電気代を払えるのは、その裏に「はかりを勝手に信じずに、国が検定する」という地味で古い仕組みがあるからだ。値段の正しさは、実は「はかりの正しさ」に支えられている。ふだんは誰も意識しないその土台が、EVという新しいモノの登場によって、久しぶりに表に引きずり出された。

電気を量り売りするというごく当たり前に見える行為ひとつのために、法律の新しい枠組みが用意され、実証実験が重ねられ、数年かけてようやく形になった。それはこの国が、「量る」という行為をどれだけ真剣に扱ってきたかの裏返しでもある。

次に急速充電スタンドの料金表を見たとき、あるいはスーパーの量り売りのはかりに貼られた小さな検定の印に気づいたとき、少しだけ思い出してほしい。私たちの買い物は、目に見えないところで、「このはかりは正しい」という誰かの保証の上に乗っている。EVの充電が「時間」から「電気の量」へ静かに切り替わったこの数年は、その古い保証の仕組みが、新しい時代に合わせて自分をつくり直していた時間でもあったのだ。

参照元: 経済産業省 資源エネルギー庁「特定計量制度に基づく電気の計量について」、経済産業省「特定計量制度に係るガイドライン」(2022年4月1日)、e-Mobility Power「ビジター利用料金におけるkWh課金の導入等のお知らせ」(2026年4月)、読売新聞「EVの充電料金は『入れた電気の量』ではなく『充電にかかった時間』で決まる」(2023年12月12日)、経済産業省「特定計量器を利用する場合」/「特定計量器を販売する場合」、日本電気計器検定所(JEMIC)「電気計器等の検定・検査」

車選びドットコムマガジン編集部

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