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あなたの新車が来年なかなか届かないとしたら、犯人は「話しかけると答えてくれるAI」かもしれない

記事サムネイル - AIと車の半導体問題

新車の納車遅れや中古車高騰の原因をたどると、意外な犯人に行き着く——世界中で沸騰するAI需要が、車の生産ラインを静かに蝕んでいる実態を解説。

Chapter
今の車は、鉄の塊ではなく「走る電子機器」になっている
半導体の世界を、AIが丸ごと吸い上げている
車が使うのは「枯れた、地味なチップ」なのに、なぜ巻き添えになるのか
「一度だけの偶然」ではないと、私たちは学んでいる
2026年、いくつもの綱がいっぺんに引っぱられている
遠い流行が、あなたの通勤の足の値段を決める

新しい車を注文して、「納車は数か月先です」と言われた経験のある人は少なくないと思う。あるいは、ほしい中古車の値札を見て、思っていたより高くて驚いた人もいるだろう。

そのとき私たちは、なんとなく理由を想像する。半導体不足のせいだ、と聞いたことがある。EVがブームだから部品を取り合っているんだろう。円安で輸入部品が高いのかもしれない。だいたいそんなところに落とし込んで、納得する。

ところが、2026年のいま、その「納車が遅れる理由」の裏側をたどっていくと、意外な場所にたどり着く。スマートフォンでもなく、EVブームそのものでもなく、あなたがパソコンやスマホで文章を書かせたり、絵を描かせたりしている、あの「AI」だ。

正確に言えば、そのAIを動かすために世界中で建てられている巨大なコンピューター倉庫、いわゆるデータセンターである。そこで使われる半導体の途方もない需要が、めぐりめぐって、車という一見まったく関係のない工業製品の生産に影を落としている。

「話しかけると答えてくれるソフト」と「町工場で組み立てられる鉄の車」。この二つが同じ資源を奪い合っているという事実は、少し立ち止まって考えると、かなり奇妙な話だ。今回は、その奇妙なつながりを解いていきたい。

今の車は、鉄の塊ではなく「走る電子機器」になっている

走る電子機器 - 車載半導体の模式図

まず前提として知っておきたいのは、今の車が、私たちの思っているよりずっと「電子機器」に近い存在になっているということだ。

車の中には、半導体、つまりチップと呼ばれる小さな電子部品が大量に入っている。エンジンの制御、ブレーキ、エアバッグ、パワーウインドウ、カーナビ、バックカメラ、衝突を防ぐ自動ブレーキ、車線からはみ出しそうになると警告してくれる機能。こうしたものは、ほとんどすべてチップが動かしている。

調査会社ヨール(Yole)の分析によると、2022年の時点で、ふつうの車1台に使われている半導体の数はおよそ850個。EVや高機能な車になると、その数はさらに増える。ガソリン車が1台あたり600〜700個ほどなのに対して、EVでは1600個を超えるという報道もある。数年後にはふつうの車でも1000個を超えていく見通しだという。

30年前、1995年ごろの車に使われていた半導体は20〜30個程度だったとされる。つまり、この数十年で、車1台に詰め込まれるチップの数は数十倍にふくらんだ。私たちが「車」と呼んでいるものは、いつのまにか、鉄とゴムとガラスでできた乗り物から、大量のチップを積んで走る電子機器の塊へと姿を変えていた。

ここが出発点だ。車がこれだけチップに依存しているということは、チップの世界で何かが起きれば、車は必ずその影響を受ける。そして今、チップの世界で起きている最大の出来事が、AIブームなのである。

半導体の世界を、AIが丸ごと吸い上げている

生成AIが話題になり始めてから数年、世界中の企業がAIの計算をこなすための巨大なデータセンターを競うように建てている。そこには、AI専用の高性能な半導体、たとえば画像処理から転用された高価なチップや、データを高速でやり取りする特殊なメモリが、気が遠くなるほどの数で必要になる。

その勢いは、数字にはっきり表れている。世界半導体市場統計(WSTS)の予測では、2025年の世界の半導体売上高は前の年より2割以上増えて7700億ドルを超え、2026年もさらに大きく伸びる見込みだという。この成長を引っ張っているのが、AI向けの高性能な計算チップと、それを支えるメモリだ。

経済産業省の資料も、2022年に対話型AIが登場して以降、半導体の成長を引っ張る主役がAIへと移った、とはっきり書いている。半導体という巨大な世界の重心が、この数年でごっそりAIの側に移動したということだ。

問題は、チップを作れる工場、とりわけ世界最先端のチップを作れる工場が、地球上にごく限られた数しかないことだ。台湾のTSMCという会社は、最先端のチップ製造で世界の圧倒的な割合を握っている。その最先端の製造能力は、AI向けの注文で数年先まで予約が埋まっているとも報じられる。工場も、それを作る装置も、材料も、そこで働く技術者も、有限だ。だから需要が一か所に殺到すれば、当然どこかにしわ寄せがいく。

車が使うのは「枯れた、地味なチップ」なのに、なぜ巻き添えになるのか

ここで一つ、当然の疑問がわく。

AI向けの半導体は、最先端の、髪の毛よりはるかに細かい回路を刻み込んだ超高性能チップだ。一方、車に使われるチップの大半は、そこまで高性能である必要がない。ブレーキやパワーウインドウを制御するのに、最新鋭の計算能力はいらない。むしろ、何年も酷暑や極寒や振動に耐え、絶対に壊れないことのほうが大事だ。だから車は、あえて「枯れた」、つまり昔からある成熟した技術で作られる、地味で安価なチップを大量に使っている。

作っている工場のラインも、最先端AIチップとは別であることが多い。だとしたら、AIがどれだけ最先端チップを買い占めても、車には関係ないのではないか。そう思えてくる。

ところが、話はそう単純ではない。両者は、直接同じ製造ラインを奪い合っているわけではないが、その手前と後ろで、しっかりつながっているのだ。

一つは、材料と設備投資の優先順位だ。チップを作る会社にとって、限られたお金と工場のスペースをどこに振り向けるかは、経営判断そのものである。高性能で高く売れるAI向けチップと、安くて利幅の薄い車向けチップ。どちらに投資と製造能力を回すか。実際、過去の半導体不足のときには、「低性能で安価な自動車向けよりも、高性能で高価なスマホやパソコン向けを優先して作った」と業界で語られてきた。同じことが、今度はAIを主役にして繰り返されうる。地味なチップは、儲かる相手に押しのけられやすい。

もう一つは、チップを作った後の工程や、材料そのものだ。チップは回路を刻んで終わりではなく、切り分けて、パッケージに封入して、検査して、はじめて部品になる。この後工程の能力や、シリコンの土台となる材料は、種類の違うチップどうしでも取り合いになりうる。AIが半導体産業全体を熱狂的な奪い合いの状態にすれば、その熱は、直接は無関係に見える車向けのチップの供給にまで、じわじわと伝わっていく。

「一度だけの偶然」ではないと、私たちは学んでいる

半導体不足の影響 - 自動車生産ライン

車がチップ不足でつまずくと何が起きるのか。私たちはすでに、数年前に手痛い形で経験している。

2020年からのコロナ禍で、半導体の供給網が混乱した。すると、世界中の自動車工場が部品不足で車を作れなくなった。調査会社の集計では、2021年だけで世界でおよそ950万台から1000万台の車が、作られる予定だったのに作れずに消えたとされる。トヨタも国内の全工場で稼働を止める日を設け、生産計画を下方修正した。

そして、この「作れなかった」という事実は、私たちの財布に直接跳ね返ってきた。新車が思うように手に入らなくなると、人々は状態のいい中古車に流れる。すると中古車の値段が跳ね上がる。数年前まで100万円ちょっとで買えたはずの車に、その1.5倍近い値札がつく。あの中古車価格の高騰の一因は、地球の裏側で起きたチップの混乱だった。

つまり、遠いところで起きたチップの問題は、必ず時間差で、車を買う人・売る人の生活に届く。これは想像ではなく、すでに起きたことだ。

そして2025年から2026年にかけて、その「遠いところ」で、また不穏なことが重なっている。

2026年、いくつもの綱がいっぺんに引っぱられている

一つは、AIブームによる半導体全体の需要過熱そのものだ。これはこれまで見てきたとおり、地味な車向けチップを構造的に押しのけかねない、いわば地殻変動のような話だ。

それに加えて、2025年の後半には、もっと直接的で生々しい出来事が相次いだ。

車のあちこちで使われる、地味だが不可欠なチップを大量に作っていたネクスペリア(Nexperia)という半導体メーカーをめぐって、その会社が拠点を置くオランダの政府と、親会社のある中国とのあいだで、経営権と輸出をめぐる衝突が起きた。中国からの製品輸出が一時止まり、車のECU(電子制御装置)に多く使われるこの会社のチップの供給に、業界全体が神経をとがらせた。ホンダが海外工場の稼働を一部止める事態にもなったと報じられている。

さらに、EVのモーターなどに欠かせないレアアース(希土類)という資源をめぐっても、それを事実上握る中国が輸出の管理を強め、世界の自動車メーカーが調達に苦しむ場面があった。こちらはチップそのものとは別のサプライチェーンの話だが、「車という製品が、いくつもの見えにくい国際的な綱で吊るされている」という点では、まったく同じ構図だ。

もっとも、業界の専門家のあいだでも、2026年の状況を2021年のような世界的パニックと同列に語るのは行きすぎだ、という声はある。最悪期はすでに脱した、と見る調査会社もある。だから「また車が作れなくなる」と決めつけるのは正しくない。これらの綱がすべて同時に切れる保証も、逆にすべて無事である保証も、今のところない、というのが正直なところだ。ここは断定を避けておきたい。

ただ確かなのは、AIという地殻変動と、資源や地政学という複数の不安要素が、同じ時期に、車という一つの製品の上で重なっている、という事実である。

遠い流行が、あなたの通勤の足の値段を決める

ここまでの話を、自分の生活の高さまで下ろしてみる。

もしあなたが数年以内に車を買い替えるつもりなら、その車がいつ届くか、いくらになるかは、あなたの近所のディーラーの努力だけでは決まらない。それは、あなたが名前も知らない国の政治判断や、シリコンバレーのAI企業がどれだけデータセンターを建てるか、といった、はるか遠い出来事に、静かに左右されている。

車を持たない人にとっても、この話は他人事ではない。私たちが日々受け取る宅配便のトラックも、地方の路線バスも、介護施設の送迎車も、すべて同じチップと同じサプライチェーンの上に乗っている。車が作れない・高くなるという波は、車を運転しない人の暮らしにも、モノの値段や移動サービスの形を通じて回り込んでくる。

そして何より面白いのは、車という古くからある工業製品が、いつのまにか、最先端テクノロジーの流行と同じ土俵に立たされていた、という点だ。私たちが便利だと思って軽い気持ちでAIに文章を書かせるとき、その裏では、そのAIを動かすチップをめぐる巨大な争奪戦が起きている。その争奪戦の余波が、まわりまわって、鉄でできた乗り物の生産ラインを揺らす。

車は、もはや鉄の塊ではない。世界中の資源と技術と欲望が集まってくる、小さな交差点のような存在になっている。次に「納車は少し先になります」と言われたとき、そのひと言の裏側に、想像もしなかった遠い世界がつながっていることを思い出してみると、ただの待ち時間が、少しだけ違って見えてくるかもしれない。

参照元: 日本経済新聞、共同通信(自動車生産・部品供給に関する各報道)、世界半導体市場統計(WSTS) 2025年市場予測、経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」関連資料、Yole Intelligence「Semiconductor Trends in Automotive」、S&P Global Mobility、AutoForecast Solutions(2021〜2022年の自動車減産台数の集計)、EE Times Japan、ロイター、ジェトロ(ネクスペリア問題およびレアアース輸出管理に関する報道)

車選びドットコムマガジン編集部

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