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2026年4月以降に車を買った人は、知らないうちに数万円安く買っている。「消えた税金」の名前を、あなたはたぶん言えない

環境性能割廃止 記事サムネイル

2026年4月、車を買うときにかかっていた「環境性能割」が廃止された。知らないうちに数万円得をしているのに、多くの人がその名前すら言えない。消えた税の正体と、その裏で動き始めた新たな負担の話。

Chapter
「環境にいい車ほど安くなる税金」という、わかったようでわからない名前
その税は、名前を変えて生き延びてきた
なぜ今度こそ「本当に」消えたのか
だが、財布全体が楽になったわけではない
日本の車には、9種類の税金がかかっている
名前が変わるとき、私たちは「減った」しか覚えていない
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車を買うとき、私たちはいくつもの数字に向き合う。車両本体価格、値引き、下取り、それからよくわからない諸費用の束。見積書の下のほうには、聞いたことのないような項目が小さな字で並んでいて、合計だけを見て「まあこんなものか」とハンコを押す。あの瞬間に、自分が何にいくら払っているのかを正確に説明できる人は、そう多くない。

その見積書の中に、2026年3月まで、ひとつの税金がまぎれていた。新車だけでなく、中古車を買うときにもかかっていた。金額は車によっては数万円。それなりに大きい。にもかかわらず、多くの人はその名前すら覚えていない。

その税金は、2026年4月1日をもって消えた。だから、この春以降に車を買った人やこれから買う人は、知らないうちに以前より安く車を手に入れている。得をしているのに、自分が何の負担から解放されたのかを、ほとんどの人が言えない。

消えた税金の名前は「環境性能割」という。

「環境にいい車ほど安くなる税金」という、わかったようでわからない名前

環境性能割。文字を見ると、なんとなく良いことをしている気分になる。環境に配慮した車を優遇する仕組みなのだろう、と。実際、そう設計されていた。

仕組みはこうだ。車を買うとき、その車の取得価額に対して税金がかかる。税率は燃費や排出ガスの性能で変わり、自家用の普通車なら0%から3%。軽自動車や営業用の車は0%から2%。電気自動車や燃費のいい車ほど税率が低く、性能の悪い車ほど高くなる。だから「環境性能割」という名前がついていた。

たとえば300万円のガソリン車なら、燃費性能によっては最大で9万円ほどの負担になっていた。決して小さくない。そしてこの税は、新車を買うときだけでなく、中古車を買うときにもかかっていた。取得価額が50万円以下なら非課税、相続で引き継いだ場合も対象外、といった例外はあったが、原則として「車を手に入れたら払う」税だったのだ。

中古車を買った人の多くは、この事実をはっきりとは意識していなかったと思う。総支払額の中に溶け込んでいて、「これは環境性能割という税金です」と意識して払った人は少ない。名前が立派なわりに、財布のどこから引かれているのかが見えにくい税だった。

その税は、名前を変えて生き延びてきた

自動車取得税から環境性能割への税制変更

ここからが、この話の本当に面白いところだ。

環境性能割は、2019年10月に生まれた。消費税が8%から10%に上がった、あのタイミングである。なぜこの時期に新しい税が生まれたのか。理由は単純で、それまであった別の税を「廃止」して、その代わりに導入されたからだ。

廃止された税の名前は「自動車取得税」という。こちらは名前のとおり、車を取得したときにかかる税だった。消費税が10%に上がるとき、「車を買うのに消費税も取得税も両方かかるのは二重取りではないか」という批判があった。そこで自動車取得税はいったん廃止され、ほぼ同じ性格を持つ環境性能割が、入れ替わりに登場した。

つまり、税そのものが消えたわけではなかった。「取得税」という名前が「環境性能割」という名前に置き換わり、燃費に応じて税率を変える味付けが加えられただけ、という見方もできる。私たちは2019年に「取得税がなくなった」と聞かされたが、実際には名前を変えた似たような税を、その後も7年近く払い続けてきたことになる。

税金は、こうやって名前を変えながら生き延びる。「廃止しました」というニュースの裏で、別の名前の税が立ち上がっている。一般の人がそこまで追いかけるのは難しい。名前が変わると、それはもう別物のように見えてしまうからだ。

なぜ今度こそ「本当に」消えたのか

その環境性能割が、2026年3月31日に廃止された。参議院の本会議で地方税法の改正案が可決・成立し、4月1日以降に登録・届け出をする車は、新車も中古車も対象から外れた。今度は名前の付け替えではなく、税そのものがなくなった。

なぜこのタイミングだったのか。理由は一つではない。

ひとつは、長く言われてきた「消費税との二重課税」という批判だ。車を買うときに消費税を払い、そのうえでさらに環境性能割を払う。同じ買い物に二度税金がかかっているように見える、という指摘である。

もうひとつは、自動車産業を取り巻く環境の変化だ。アメリカの追加関税が日本車に打撃を与え、物価高で国内の消費も冷え込んでいた。日本の基幹産業である自動車の国内需要を少しでも温めたい。そういう思惑から、車を買うときの負担を軽くしよう、という流れになった。実際、自動車メーカーの団体や経済産業省は、以前からこの税の廃止を強く求めていた。

結果として、私たちは車を買うときの負担が一つ軽くなった。これは素直に、買う側にとって良いニュースである。

だが、財布全体が楽になったわけではない

環境性能割廃止と地方税収への影響

ここで、少し立ち止まりたい。

「税金が一つ消えた」と聞くと、私たちは反射的に「楽になった」と思う。けれど、税金の世界はそんなに単純ではない。

環境性能割は地方の税だった。都道府県や市町村に入るお金で、その額は年間でおよそ1600億円から1900億円ほどあったとされる。私たちが走る道路の8割以上は、こうした地方自治体が管理している。舗装を直し、橋を点検し、信号を維持する。その費用の一部を、車を買う人が負担していた。

その財源が、ごっそり消えた。地方からすれば、入ってくるはずだったお金が消えたわけで、当然「ではどこから埋めるのか」という話になる。

実際、すでに次の動きが始まっている。車を持っている間、毎年かかる「自動車税種別割」については、引き上げが検討されている。約30年間ほとんど上がっていないうえ、新車の平均価格はこの10年で1.5倍に上がったため「実質的な税負担は下がっている」という理屈だ。さらに、電気自動車に対しては、車の重さに応じた新しい税を2028年から導入することも決まっている。重いEVは道路を傷めやすい、という理由である。

つまり、構図はこうだ。買うときの税が一つ消えた。その穴を、持っている間にかかる税や、新しい税で埋めようとする力が働いている。水風船を片側から押すと、別の側がふくらむのに似ている。減った場所だけを見れば「楽になった」が、全体を見れば、お金の流れは形を変えて続いていく。

日本の車には、9種類の税金がかかっている

そもそも、日本の車にかかる税金は、環境性能割ひとつではない。

自動車関係の税は、全部で9種類あるとされる。車を買うとき、持っている間、走らせるとき。それぞれの段階で、名前の違う税が次々とかかってくる。自動車税、軽自動車税、自動車重量税、ガソリンにかかる税、自動車を買うときの消費税。挙げていくと、自分がいったいいくつの名前の税を払っているのか、把握している人のほうが珍しい。

自動車工業会の試算では、これらの税の合計は2025年度で年間9兆円を超える。国全体の税収のおよそ7%。車のユーザーだけで、国の税収の十数分の一を背負っている計算になる。

国際的に見ても、日本の車の税負担は重い。車を保有している間にかかる税の負担は、アメリカのおよそ30倍、ドイツの約4.9倍、イギリスの約2.2倍とされる。同じ団体の試算では、242万円の車を13年間乗り続けると、6種類もの税がかかり、その合計はおよそ180万円にのぼるという。車一台分に近い額を、税として別に払っている勘定だ。

こうして並べてみると、環境性能割が消えたことの意味も、少し違って見えてくる。9種類のうちの一つが消えただけ、とも言える。残りの税は、変わらずそこにある。むしろ、消えた分を補おうとする力が、別の税のかたちで動き始めている。

名前が変わるとき、私たちは「減った」しか覚えていない

ここまでの話を振り返ると、ひとつの癖が見えてくる。私たち自身の癖だ。

税が「廃止された」「減税された」というニュースは、よく耳に残る。得をする話だから、印象に残りやすい。一方で、その裏で新しい税が生まれたり、別の税が少しずつ上がったりする動きは、地味で、複雑で、すぐには財布に響かないから、見過ごされる。

2019年、私たちは「自動車取得税が廃止される」と聞いた。けれど実際には、環境性能割という似た税に置き換わっていた。2026年、私たちは「環境性能割が廃止される」と聞いた。けれどその裏では、保有時の税の引き上げやEVへの新税が動き出している。

税は、私たちが「減った」と喜んでいる横で、名前を変え、場所を変えて、静かに居場所を確保し続ける。悪意があるという話ではない。道路を直すお金はどこかから出さなければならず、誰かが負担しなければならない。ただ、その負担が「どの名前で、いつ、どこにかかっているか」は、驚くほど見えにくく作られている。

車に詳しいかどうかは、ここではあまり関係がない。これは、私たちが日々払っているお金が、どんな名前で呼ばれているかという話だからだ。スマホの料金にも、電気代にも、買い物のレシートにも、名前を変えて生き延びる負担は紛れ込んでいる。車は、それがたまたま大きな金額で、しかも見えにくいかたちで現れる、わかりやすい舞台なだけだ。

次に車を買うことがあったら、見積書の小さな字を、一度だけゆっくり眺めてみてほしい。そこに並んでいる名前の一つひとつが、いつ生まれて、いつ消えて、何の名前に変わったのか。それを知っているだけで、ハンコを押す前の数分間の見え方が、少しだけ変わるはずだ。消えた税の名前を言えるようになることは、自分のお金がどこへ流れているかを、ほんの少し取り戻すことでもある。

参照元: 一般社団法人 日本中古自動車販売協会連合会「自動車税環境性能割の廃止について」、環境省「令和8年度税制改正における自動車関係諸税(車体課税)の結果について」(2026年2月)、経済産業省「自動車関連税制(自動車重量税、自動車税・軽自動車税(環境性能割、種別割))」、総務省「自動車関係税制のあり方に関する検討会」資料、一般社団法人 日本自動車工業会「自動車関係諸税」、日本経済新聞「自動車税制『環境性能割』、廃止遅れなら混乱」(2026年)、ニュースイッチ(日刊工業新聞社)「自動車税制の議論本格化、『環境性能割』は廃止に」、環境新聞オンライン「自動車関連税制 環境性能割3月廃止、EVは負担増へ エコカー減税は延長」(2026年1月)

車選びドットコムマガジン編集部

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