「いざとなれば車から電気が取れる」と思っているあなたへ。その安心は、車種によっては最初から積まれていない
9月1日は防災の日。「車があれば停電しても電気は何とかなる」という安心には穴がある。電気を外に出せない車が多いこと、エンジンかけっぱなしが命に関わること、そして防災の日に一度だけ確かめるべきことを解説する。
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- 「車から電気」は、国が本気で進めている話ではある
- 落とし穴その1・多くの車には、電気の「出口」がない
- 落とし穴その2・出口がない人が選ぶ「エンジンかけっぱなし」は、雪の日に人を殺す
- 落とし穴その3・「動く電源」として頼れるのは、実はハイブリッドとプラグインハイブリッドかもしれない
- 結局、防災の日に確かめるべきこと
9月1日は防災の日だ。この時期になると、家庭の備えを見直そうという話があちこちで流れる。水を確保する、食料を回す、モバイルバッテリーを充電しておく。そのリストの中に、ここ数年で新しく加わった項目がある。
「うちには車があるから、停電しても電気は何とかなる」
たしかに、そう言われるようになった。テレビの防災特集では、電気自動車のコンセントから炊飯器や扇風機がつながれている画が流れる。メーカーも「災害時は車が非常用電源になります」と胸を張る。国も後押ししている。なんとなく私たちは、「最悪、車のエンジンをかけておけば電気は取れる」と思い込むようになった。
ところが、この安心にはいくつか穴がある。しかもその穴は、車に詳しくない人ほど気づきにくい場所に空いている。ひとつは「あなたの車は、そもそも電気を外に出せる機能を積んでいるのか」という問題。もうひとつは、機能がないからと素朴に選んでしまう「エンジンかけっぱなし」という方法が、実は雪の日に何人もの人を死なせてきた、という事実だ。
順番に見ていきたい。
「車から電気」は、国が本気で進めている話ではある
まず、この安心論そのものは、根拠のない思いつきではない。国がかなり本気で旗を振っている。
経済産業省と国土交通省は2020年に「災害時における電動車の活用促進マニュアル」を作り、自治体に配っている。電気自動車やハイブリッド車を「動く非常用電源」として、避難所や停電した家に電気を届けるための手引きだ。2024年1月の能登半島地震では、自動車メーカーが実際に電動車を被災地へ送り、車から電気を取り出して使う場面があった。
家庭向けにも補助金がある。「V2H」と呼ばれる充放電設備、つまり車と家をつないで、車のバッテリーから家の中へ電気を流す装置だ。読み方はブイ・ツー・エイチで、Vehicle(車)to Home(家)の略にすぎない。
国はこの装置の設置費を、2026年度で最大130万円ほど補助する。補助金の目的として書かれているのは、値引きでも省エネでもなく「災害時のレジリエンス(回復力)の向上」だ。つまり国は、車を停電対策の一部として真剣に数えている。
だから「車から電気」という発想そのものは、正しい。問題は、それが「どの車でも同じようにできる」わけではない、というところにある。
落とし穴その1・多くの車には、電気の「出口」がない
ここが最初の、そして最大の勘違いだ。
家電を動かすには、車から100Vの電気を取り出す「コンセント」が要る。スマホの充電に使うシガーソケットのUSBではなく、家の壁にあるのと同じ、あの2つ穴のコンセントだ。これがついていれば、最大1500Wまで、つまり電子レンジや電気ケトルも動かせる。
問題は、このコンセントが標準ではついていない車がとても多い、ということだ。
日本自動車工業会は「給電できる車種」の一覧を公開している。逆に言えば、わざわざ一覧を作らないといけないほど、「どの車にでもついているもの」ではないのだ。ハイブリッド車を中心に対応車種は増えてきたが、それでも全グレードに標準装備という車は限られる。多くの車種では、コンセントは注文時に選ぶ「オプション」だ。買うときに意識してその欄にチェックを入れた人でなければ、ついていない。
そして、日本で今いちばん売れているのは、電気自動車ではない。2024年に国内で売れた乗用車のうち、電気自動車はおよそ2.8%にすぎない。半分以上はハイブリッド車で、残りの4割ほどはガソリンなどの非電動車だ。つまり「いざとなれば車から電気」と思っている人の多くが乗っているのは、そもそも電気の出口を持っていない、ごく普通のガソリン車である可能性が高い。
自分の車がどちらなのか。これは防災グッズを買い足すより先に、一度だけ確認しておく価値がある。
取扱説明書の目次で「給電」「アクセサリーコンセント」「非常時給電」という言葉を探すか、荷室やコンソールの奥に2つ穴のコンセントがないかを見ればいい。あれば、あなたの車は災害時にかなり心強い1台になる。なければ、「車があるから電気は大丈夫」という前提を、いったん外したほうがいい。
落とし穴その2・出口がない人が選ぶ「エンジンかけっぱなし」は、雪の日に人を殺す
コンセントがない。でも寒い。スマホの充電も切れそうだ。そういうとき、人は素朴な方法にたどり着く。エンジンをかけっぱなしにして、暖房をつけ、シガーソケットからスマホを充電する。車の中は暖かく、明るく、安全に思える。
この「安全に思える」が、いちばん危ない。
冬の停電や大雪のとき、雪に埋もれた車の中でエンジンをかけ続けると、排気ガスの出口であるマフラーが雪でふさがれる。行き場をなくした排気ガスは車体の下にたまり、わずかな隙間から車内へ入り込んでくる。その中には、一酸化炭素という無色無臭の気体が含まれている。色もにおいもないから、増えていることに本人が気づけない。眠るように意識を失い、そのまま亡くなる。
これは仮定の話ではない。JAF(日本自動車連盟)が実際に車を雪で埋めて実験したところ、何も対策しないままエンジンをかけると、わずか16分で人体に危険なレベルの一酸化炭素が車内にたまり、その6分後には測定器の上限を振り切った。窓を5センチ開けても、40分ほどで危険水準に達した。
そして、亡くなった人が現実にいる。2018年2月、記録的な大雪に見舞われた福井県では、県内で亡くなった12人のうち3人が、雪に埋もれた車の中で一酸化炭素中毒によって命を落とした。国道では1500台もの車が動けなくなっていた。
2023年1月には新潟県柏崎市で、停電のため車で暖を取っていた20代の女性が同じ理由で亡くなった。2026年1月にも、富山県で雪に埋もれた軽自動車の中から50歳の男性が亡くなって見つかっている。マフラーの周りに雪がついていた。
つまり、「電気の出口がない普通の車」を非常用電源のつもりで頼ると、いちばん素朴な使い方が、いちばん危ない使い方になってしまう。JAFが繰り返し言っているのは、たったひとつのことだ。仮眠するならエンジンは切る。どうしてもかけるなら、こまめに外に出て、マフラーの周りの雪をかき出す。
落とし穴その3・「動く電源」として頼れるのは、実はハイブリッドとプラグインハイブリッドかもしれない
ここで少しだけ、意外な逆転がある。
「非常用電源」と聞くと、多くの人が真っ先に電気自動車を思い浮かべる。バッテリーが大きいのだから、当然だろうと。ところが、災害で長引く停電に対して、いちばん粘り強いのは、純粋な電気自動車ではないことが多い。
理由はシンプルだ。電気自動車は、蓄えた電気を使い切ればそこで終わる。日産の電気自動車リーフは、メーカーの試算で一般家庭のおよそ2日から4日分の電気をまかなえるとされるが、それは満充電からの話で、停電中は充電できない。
一方、エンジンとバッテリーを両方積んだ車は、バッテリーが空になってもガソリンでエンジンを回して発電できる。とくにコンセントで充電もできるプラグインハイブリッドの三菱のアウトランダーPHEVなどは、ガソリンを併用すれば一般家庭の10日分ほどの電気を出せるとメーカーが公表している。
2018年の北海道の地震で大規模停電が起きたとき、この車の電気で3日間を乗り切った家族の話が報じられた。3日後、バッテリーは空だったが、ガソリンはまだ6割残っていたという。トヨタのプリウスも、ガソリン満タンで一般家庭の5日分ほどを給電できるとしている。
ここでも大事なのは、車の種類そのものより「電気の出口を積んでいるかどうか」だ。同じプリウスでも、コンセントのないグレードなら、この5日分は取り出せない。
結局、防災の日に確かめるべきこと
まとめると、話はこうなる。
「うちには車があるから電気は大丈夫」という安心は、半分正しくて、半分は確かめないと危ない。国が旗を振っているのは本当だし、条件がそろえば車は驚くほど心強い電源になる。だがその条件とは、「電気を外に出すコンセントを積んでいること」だ。そして今この国を走っている車の多くは、それを積んでいない。積んでいない車で無理に暖と電気を取ろうとして、雪の日に亡くなった人が、現実に何人もいる。
だから防災の日にやることは、水や電池を買い足すより先に、たぶんもっと地味で、お金のかからないことだ。自分の車に、家電をつなげるコンセントがあるかどうかを確かめる。あれば、その使い方を晴れた日のうちに一度試しておく。なければ、「車=電源」という思い込みを頭から外して、別の備えを用意する。そして、どんな車であっても、雪や停電の夜にエンジンをかけて眠るのだけはやめる。
車は、持っているだけで自動的に私たちを守ってくれる魔法の箱ではない。何ができて何ができないのかを、飼い主が正確に知っているときにだけ、頼れる相棒になる。防災の日は、そのことを思い出すのにちょうどいい。
参照元:経済産業省「災害時に電動車は非常用電源として使えます」(自動車課)
国土交通省・経済産業省ほか「災害時における電動車の活用促進マニュアル」(2020年)
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一般社団法人日本自動車工業会「各社の給電車紹介情報まとめ」
トヨタ自動車「クルマから電気を、トヨタの給電」(給電可能日数の試算)
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JAFユーザーテスト「雪に埋もれた車内での一酸化炭素中毒」
日本経済新聞・朝日新聞・読売新聞ほかによる豪雪時の一酸化炭素中毒死亡事例の報道(2018年福井、2023年新潟、2026年富山ほか)
日本自動車販売協会連合会(自販連)による2024年国内新車販売の電動車比率























