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同じ一台が、命を運ぶ救急車にも、戦争の道具にもなる。75歳になった日本車が世界の極限で選ばれ続ける理由

ランドクルーザー75周年特集 サムネイル

難民キャンプで命を運び、紛争地では戦闘にも使われる。正反対の光景に登場するのは、どちらも日本製のランドクルーザーだった。2026年に75年を迎えたこの一台が、世界の最前線で信頼され続ける理由を追う。

Chapter
始まりは、富士山の六合目だった
「どこへでも行ける」が、本当に必要とされる場所
ジブラルタルにある、「人道支援専用」の出荷拠点
同じ丈夫さが、戦場でも選ばれてしまう
「丈夫さ」は、誰のために価値を持つのか
ランドクルーザー75周年特集 サムネイル

ある写真と、別のある写真がある。

一枚は、砂ぼこりの舞う難民キャンプを走る、真っ白なワゴン車。ドアには国連や「国境なき医師団」のマークが貼られ、医師や食料を乗せて、電気も舗装もない土地の奥へ入っていく。

もう一枚は、よく似た形の車の荷台に、機関銃を据えつけた武装集団の姿。土漠を砂煙とともに疾走し、紛争地のニュース映像に繰り返し映り込む。

助ける側と、壊す側。まったく正反対に見えるこの二つの風景に、ひとつだけ共通するものがある。走っている車が、どちらも日本製だということだ。しかも多くの場合、同じ一族の車。トヨタのランドクルーザーと、その兄弟にあたるピックアップトラックである。

このランドクルーザーが、2026年で生まれて75年を迎えた。日本では「ごつくて高い、一部の好きな人の車」という程度の印象かもしれない。けれど世界地図を広げると、この一台はまるで別の顔を持っている。国の数でいえば約170の国と地域で売られ、累計の販売台数は1000万台をとうに超えた。そして、人が暮らせるぎりぎりの土地、国家の秩序が崩れた土地でこそ、最も頼りにされている。

なぜ、日本のこの車が、地球のいちばん過酷な場所で選ばれ続けるのか。その答えは、車好きの世界ではなく、国際政治とお金と人間の信頼の話につながっていく。

始まりは、富士山の六合目だった

話は戦後すぐにさかのぼる。

1950年、朝鮮戦争のただ中で、日本国内の治安を守るための「警察予備隊」がつくられることになった。のちの自衛隊の前身である。そこで丈夫な四輪駆動車が必要になり、トヨタが試作車をつくった。1951年のことだ。名前を「トヨタジープBJ型」といった。トラックの車台を四輪駆動に仕立て、大きなエンジンを積んだ、無骨なかたまりのような車だった。

この試作車が一躍注目されたきっかけが、少し変わっている。1951年7月、トヨタのテストドライバーが、このBJ型で富士山の六合目まで登ってみせたのだ。舗装された登山道路などない時代である。岩と砂利だらけの斜面を、自動車がそこまで這い上がったという事実が、当時の人々を驚かせた。これを見た警察が、パトロール用に採用を決めたと伝えられている(トヨタ公式の記録による。「自動車として世界初の高さ」といった表現も一部にあるが、トヨタ自身は「六合目まで登坂した快挙」とだけ記しており、ここでは断定しない)。

ランドクルーザーの原点(富士山六合目登坂)

ところで、この車はなぜ今「ジープ」と呼ばれていないのか。じつは「ジープ」はアメリカの会社の商標だった。勝手に使い続けるわけにはいかない。そこでトヨタは1954年、名前を変えた。新しい名は「ランドクルーザー」。陸の巡洋艦、という意味である。海を行く軍艦になぞらえて、陸のどこへでも行ける船、と名づけたわけだ。

商標トラブルから生まれたこの大げさな名前が、70年以上たって、文字どおりの意味を持つことになる。

「どこへでも行ける」が、本当に必要とされる場所

舗装路を時速60キロで流すぶんには、どんな車でも大きな差はない。ランドクルーザーの真価が出るのは、道そのものが存在しない場所だ。

雨季にぬかるんで沼のようになった一本道。整備工場が半径数百キロどこにもない内陸。ガソリンの質が悪く、部品が手に入らず、気温が50度近くまで上がる砂漠。そういう土地で、壊れずに走り続け、壊れても現地の工具で直せる。この「直せる」という点が、実は決定的に重い。

先進国のように、故障したらディーラーに運んで最新の診断機につなぐ、という前提が使えない土地がある。そこでは、複雑すぎる車はただのお荷物になる。頑丈な鉄の塊で、構造が枯れていて、世界中に部品と修理の知恵が出回っている車こそが「生き残る車」になる。ランドクルーザーや、同じ思想でつくられたトヨタのピックアップ「ハイラックス」は、まさにそれだった。

この評価は、数字にもにじんでいる。ランドクルーザーが売られている約170の国と地域には、日本では名前も聞かないような国がいくつも含まれる。国内向けに年に数万台売れるかどうかの車が、世界ではまったく別の存在感を持っているのだ。

ジブラルタルにある、「人道支援専用」の出荷拠点

ここからが、多くの人が知らない話だと思う。

トヨタには、国連や国際援助団体に車を届けることだけを専門にした会社がある。地中海の入口、スペインの先にある小さな土地ジブラルタルに拠点を置く「トヨタ・ジブラルタル・ストックホールディングス」。1996年につくられた、トヨタ公認の供給元だ。

ここが扱うのは、ランドクルーザーやハイラックスを中心とした、過酷地向けの車ばかり。しかも買い手は原則として、実在する援助機関に限られるという。国連の各機関、国境なき医師団、世界食糧計画、赤十字の仲間たち。砂ぼこりに映えるあの白い車体の多くは、ここを経由して世界の被災地や紛争地へと送り出されていく。報道によれば、毎月およそ650台がここから旅立っていくという(数字は報道ベースで、会社自身が公表した一次資料までは確認できていない)。

つまり、難民キャンプのニュースで背景にちらりと映る白い四駆は、たまたまそこにあったのではない。世界の人道支援の現場は、相当な部分を一社の日本車に頼って回っている。緊急時に止まらない車、というのは、物資が止まるか届くか、人が助かるか助からないかに直結する。地味だが、これは立派なインフラである。

トヨタ・ジブラルタル・ストックホールディングス(人道支援向け出荷拠点)

同じ丈夫さが、戦場でも選ばれてしまう

ところが、ここに皮肉がある。

「頑丈で、直しやすく、どこでも部品が手に入る」という長所は、人を助けたい側だけの都合ではない。人を攻撃したい側にとっても、まったく同じ理由でありがたい。

紛争地では、民間のピックアップトラックの荷台に機関銃や無反動砲を据えつけた、即席の戦闘車両がよく使われる。英語で「テクニカル」と呼ばれる。この奇妙な呼び名の由来がまた、援助の世界と地続きだ。1990年代初めのソマリア内戦で、治安が崩れ、援助団体は武装した護衛を雇わないと活動できなくなった。その護衛や車の費用を、団体は会計上「技術支援費(テクニカル・アシスタンス)」という名目で処理した。そこから、武装したピックアップそのものが「テクニカル」と呼ばれるようになったと言われている。

さらにさかのぼると、1987年、アフリカのチャドとリビアの紛争の最終局面で、チャド側がトヨタのピックアップに武器を載せて機動戦を仕掛け、大きな戦果をあげた戦いがあった。のちに「トヨタ戦争」とまで呼ばれた。以後、アフガニスタン、ソマリア、中東各地の紛争映像に、日本製の四駆やピックアップが当たり前のように登場するようになる。

作り手が望んだ使われ方ではない。それでも、丈夫で裏切らない道具は、善悪の区別なく人の手に渡る。あるときトヨタの担当者が海外メディアに語ったとされる言葉がある。要約すれば、「誇らしい使われ方ではないが、彼らも普通のトラックの買い手と同じものを求めている。壊れない耐久性と、信頼性を」。この発言は2001年ごろの米紙報道に由来するとされ、のちの各紙で繰り返し引用されてきたものだ(原記事そのものを直接は確認できていないため、言い回しは引用の引用である点を添えておく)。

道具が優秀であることと、その道具が正しく使われることは、別の問題だ。信頼される車ほど、その信頼を悪用する者の手にも渡りやすい。このねじれは、車に限らず、優れた技術というものがいつも抱える宿命でもある。

「丈夫さ」は、誰のために価値を持つのか

ここまで来ると、ランドクルーザーの75年は、単なる一車種の記念日ではないことが見えてくる。

私たちは普段、車を選ぶとき「燃費がいい」「運転が楽」「家族が乗れる」「見た目が好き」といった、日常の快適さで判断する。壊れにくさも気にはするが、せいぜい「故障して修理代がかさむのは嫌だな」という家計の話だ。

ところが世界には、「壊れない」が、快適さではなく生存の条件になる場所がある。その土地では、最新の電子装備も、洗練されたデザインも二の次で、ただひたすら「止まらないこと」「直せること」が問われる。日本で生まれた無骨な一台が、まさにその一点で世界の信頼を勝ち取り、同じ一点ゆえに戦場にも引きずり込まれた。

丈夫さという、ふだんは地味で目立たない性質。それが、ある場所では人の命を運び、別の場所では人の命を奪う道具になる。価値というものは、モノの側だけで決まらない。それを使う人間と、置かれた状況が、同じ長所をまるで違う意味に変えてしまう。

次にニュース映像の片隅で、砂ぼこりの中を走る白い四駆を見かけたら、少しだけ思い出してほしい。あれは、75年前に富士山の六合目を這い上がった一台の子孫であり、いまも世界のいちばん遠い場所で、人の生死のすぐそばを走り続けている車なのだ。日本の道で見かける「ちょっと大げさな大きい車」は、地球の裏側では、まったく違う重さを背負っている。

参照元: トヨタ自動車 75年史「ランドクルーザー」車両系統、トヨタイムズ「ランドクルーザー 75周年」特集、GAZOO(トヨタ)クルマ鑑定団・ランドクルーザーの歴史、トヨタ自動車 ニュースリリース「ランドクルーザー累計販売台数1000万台突破」、日本経済新聞「ランドクルーザー」75周年関連記事、英語版 Wikipedia「Technical (vehicle)」

車選びドットコムマガジン編集部

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