中古車が買いたくなる自動車WEBマガジン

横断歩道で運転手の顔を見るのは、いつも歩行者の側だった。これからは、車があなたの顔を見る

「横断歩道で運転手の顔を見るのは、いつも歩行者の側だった。これからは、車があなたの顔を見る」(記事サムネイル)

信号のない横断歩道で、私たちはいつも運転手の顔を見て渡る判断をしてきた。だが2026年9月、国土交通省は車に運転者の眠気と脇見を見張らせる装置の義務化を決めた。車があなたの顔を見る時代は、もう始まっている。

Chapter
国が「車にカメラで運転者を見張らせる」と決めた
実は、もう始まっている
「3.5秒」という数字は、どこから来たのか
このルールは、日本が決めたわけではない
信じる相手が、人から機械に変わる
「横断歩道で運転手の顔を見るのは、いつも歩行者の側だった。これからは、車があなたの顔を見る」(記事サムネイル)

信号のない横断歩道の前に立ったとき、多くの人が無意識にやっていることがある。近づいてくる車の運転席を、ちらっと見るのだ。止まってくれそうか。こちらに気づいているか。スマホを見ていないか。目が合えば、軽く会釈して渡り出す。目が合わなければ、もう一歩下がって待つ。

この「相手の顔を見る」という動作は、歩行者の側の仕事だった。車は鉄のかたまりで、こちらを見てはくれない。だから人間のほうが、運転している人の視線や表情を読み、信用できるかどうかを瞬時に判断してきた。免許を取ってから手放すまで、私たちは「見る側」ではなく、ずっと「見られて確かめられる側」として運転してきたとも言える。

ところが、その関係がいま、静かにひっくり返ろうとしている。これからの車は、あなたの顔を見る。歩行者がするのと同じように、まぶたが落ちていないか、視線が前からそれていないかを、運転席のすぐ近くから、黙ってずっと見つめ続ける。

国が「車にカメラで運転者を見張らせる」と決めた

2026年9月30日、国土交通省がひとつのルールを正式に書き加えた。新しく作る車には、運転している人の「眠気」と「脇見」を検知して警報する装置を備えなければならない、というものだ。いわゆるドライバーモニタリングシステムで、運転席のまわりに付いた小さなカメラが、顔の向きやまぶたの開き具合、視線の先を見張る。

適用されるのは、新しく設計される車が2031年9月から、いまあるモデルを作り続ける「継続生産車」が2033年9月からだ。対象は乗用車だけでなく、軽自動車やトラック、バスまで含む。数年先の話に聞こえるかもしれないが、次に車を買い替える人の多くは、ほぼ確実にこの「顔を見られる車」に乗ることになる。

要件はかなり具体的だ。脇見については、時速50キロ以上で走っているときに手元を3.5秒間見続けると警報が鳴る。時速20キロ超から50キロ未満なら6秒間で鳴る。眠気のほうは、時速70キロから130キロの範囲で、運転者の眠気が一定の水準に達したら警報する。カメラがあなたを採点し、基準を超えた瞬間に「前を見ろ」「起きろ」と音で割り込んでくる。そういう車が、標準装備になる。

実は、もう始まっている

「2031年」と聞いて、まだ先のことだと感じた人は、たぶん今の車の装備を正確には把握していない。この機能は、義務化を待たずにすでに市販車へ広がっている。

スバルの運転支援システムを積んだ車には、顔を認識して脇見や居眠りを警告する「ドライバーモニタリングシステム」が載っている。トヨタやレクサスの一部車種には、ステアリングの奥の赤外線カメラが顔の位置や目の開閉を見て、運転できる状態かどうかを判断する「ドライバーモニター」がある。日産、ホンダ、マツダにも同じ思想の機能がある。運転者が警告に反応しないまま異常な状態が続けば、車のほうが勝手に減速し、停車し、ハザードとクラクションで周囲に知らせ、場合によっては緊急通報センターにつなぐところまでやる。

つまり、すでに相当数の人が、気づかないうちに「車に顔を見られながら」運転している。多くの人がこの機能を意識していないのは、ふだんは何も起きないからだ。正しく前を見て、まぶたを開けている限り、カメラは黙っている。存在を主張するのは、こちらが基準を踏み越えたときだけ。優秀な見張りほど、見張られている実感を与えない。

ここで一度立ち止まってほしい。カメラが自分の顔を撮っているなら、その映像はどこへ行くのか。気になるところだが、現状でわかる範囲では、処理の多くは車の中で完結している。たとえばトヨタは、ドライバーモニターの画像を使うのは事故解析や故障診断、カメラそのものの研究開発などに限られ、取得するのも販売店に入庫したときなど特定の場面で前後数秒ぶんだ、と公表資料で説明している。顔を数値化して覚える顔認証のデータも、車内のコンピューターに保存して認証以外には使わない、第三者には渡さない、と取扱説明書に明記するメーカーがある。常にどこかへ生中継されている、という単純な話ではない。

ただし、車載カメラの映像をどこで処理し、どこまで外に送るかは、車種やサービスによって違う、と自動車メーカーの業界団体自身が認めている。車の中で消えていくのか、クラウドに届くのか。その線引きは一枚岩ではない。【未確認】個々の車種について、ドライバーの映像を保存も送信もしないと明言した公表文書は、少なくとも各社そろって出ているわけではない。

「3.5秒」という数字は、どこから来たのか

脇見検知の基準「3.5秒」の章で使用する本文画像

話を、あの数字に戻したい。脇見の基準は3.5秒と6秒。妙に半端で、妙に具体的だ。この秒数には、どんな根拠があるのだろうか。

人間がよそ見をして事故に近づくまでの時間については、よく知られた研究がある。アメリカのバージニア工科大学交通研究所が、一般ドライバーの車に計測機器を積んで日常の運転をまるごと記録した、通称「100台調査」だ。2006年に米運輸省道路交通安全局がまとめた報告によれば、前方から視線を外していた時間の合計が2秒を超えると、衝突やニアミスのリスクが平常時の少なくとも2倍にはね上がる。この「2秒」が、脇見の危険ラインとして世界中で引用されてきた。安全局が2013年にまとめた指針でも、運転中の操作は一度の視線外しを2秒以内に、累計でも12秒以内に、という目安が示されている。

ここで不思議なことに気づく。危ないと言われているのは2秒なのに、車が警報を鳴らすのは3.5秒や6秒。つまり、科学が「危険」と呼ぶラインを、1.5倍から3倍もオーバーしてから、ようやく車は口を開くのだ。

なぜ、もっと早く鳴らさないのか。答えらしきものを探して国際ルールの文面を読んでも、「なぜ3.5秒なのか」をきれいに説明した一次資料は、公開されている範囲では見当たらない。手がかりになるのは、基準をつくる側が残した言い回しだ。ドライバーの個人差や座り方のばらつき、そして「市場がまだ成熟していない」ことを考えて、性能要件は現実的で到達可能な水準に設定すべきだ、と前置きのような文章に書かれている。

これを普通の言葉に直すと、こういうことになる。本当は2秒くらいで警告したいが、そんなに敏感にすると誤検知が増え、何でもないのにピーピー鳴って、運転者がうるさがって機能を切ってしまう。だからいまの技術で確実に「これは本当に脇見だ」と言い切れるところまで待つと、3.5秒や6秒になる。3.5秒という数字は、人間の限界から導かれた安全ラインというより、技術と人間の我慢との間で折り合った、妥協の着地点に近い。時速50キロで3.5秒といえば、車はおよそ49メートル進む。サッカーゴールからゴールまでの距離を、誰も見ていない状態で駆け抜けてから、ようやく警報が鳴る計算になる。

これは機械を責める話ではない。むしろ、安全装置というものが「理想の数値」ではなく「人間が受け入れてくれる数値」で決まるという、生々しい現実の話だ。どんなに正しい警告でも、鳴りすぎれば切られる。切られた安全装置は、ない装置と同じだ。だから設計者は、鳴らさなすぎてもいけないし、鳴らしすぎてもいけない、その細い尾根の上に数字を置く。3.5秒という半端さは、その綱渡りの跡である。

このルールは、日本が決めたわけではない

もうひとつ、多くの人が意外に思うであろうことがある。この「顔を見張る車」を日本に導入すると決めたのは国土交通省だが、中身そのものを日本が考えたわけではない。

車の安全基準には、国連の下に置かれた「自動車基準調和世界フォーラム」という長い名前の会議体がある。世界中の車のルールをなるべくそろえておけば、メーカーは国ごとに違う車を作らずに済むし、どの国の人も同じ安全性能の恩恵を受けられる、という発想だ。今回の眠気警報と脇見警報も、この場で2026年に国際基準としてまとまり、日本はそれを自国のルールに取り込んだ。3.5秒も6秒も、もとをたどればヨーロッパで先に決まった基準の流れをくんでいる。

つまり、あなたの次の車があなたの顔を見るかどうか、何秒で警報を鳴らすかは、日本のどこかの役所が日本の道路を見て決めた、という話ではない。ジュネーブの会議室で、各国の代表が交渉し、技術者が妥協し、文章にした結果が、やがて国道沿いのディーラーに並ぶ車のカメラになって戻ってくる。私たちが運転席で感じる「なんだか急に警告がうるさくなったな」の裏側には、顔も名前も知らない人たちの、国境を越えた長い議論がある。

信じる相手が、人から機械に変わる

信じる相手が人から機械に変わる章で使用する本文画像

ここまでをつなげると、ひとつの大きな流れが見えてくる。

横断歩道で運転手の顔を見ていたのは、相手が信用できるかを人間が人間の目で確かめる行為だった。車同士が交差点で譲り合うときの、ちょっとした目配せや手ぶりもそうだ。運転という営みは、知らない者同士が路上でお互いを一瞬だけ信じ合う、小さな信頼の積み重ねでできている。

いま起きているのは、その信頼を確かめる役目が、人間の目から機械のカメラへ移っていくことだ。あなたがちゃんと前を見ているか。眠くなっていないか。それを隣に乗った家族でも、すれ違う歩行者でもなく、ダッシュボードの小さなレンズが引き受ける。しかも、いやがる人がいても切れないように、国が「付けなさい」と義務にした。信頼は、善意で差し出すものから、装置で保証されるものへと姿を変えつつある。

これは便利さと引き換えの、静かな交換である。得るものははっきりしている。脇見運転が原因の死亡事故は、日本で毎年おおむね全体の1割を占め続けてきた。眠気と脇見を早い段階でとがめる車が当たり前になれば、助かる命が増える可能性は高い。失うもののほうは、目には見えにくい。自分の顔を自分の車に監視される違和感。警告に慣れきって、前を見るかどうかを自分の判断ではなく機械の許しで決めるようになる感覚。そして、運転席という最後のプライベート空間に、小さなレンズがひとつ増えること。

車にふだん関心がない人にとっても、これは他人事ではない。職場に顔認証の入退室が入り、スマホがあなたの視線を追い、街のカメラが歩く速度まで記録する。私たちの暮らしは、人が人を見て信じる仕組みから、機械が人を見て保証する仕組みへ、あちこちで少しずつ移っている。運転席のカメラは、その流れがいちばん身近な「鉄の箱」の中にまで入り込んできた、わかりやすい一例にすぎない。

次に車を選ぶとき、カタログの隅に「ドライバーモニター」や「ドライバー異常時対応システム」という文字を見つけたら、少しだけ立ち止まってみてほしい。それは、あなたの眠気やよそ見から命を守ってくれる味方であり、同時に、運転席でのあなたを3.5秒ごとに採点し続ける、物言わぬ同乗者でもある。横断歩道で運転手の顔をのぞき込んでいたあの一瞬の習慣は、形を変えて、こんどはあなた自身へ向けられる。見る側だと思っていた私たちは、いつのまにか、いちばん近くから見られる側になっている。

参照元: 国土交通省 報道発表資料「ドライバーモニタリングシステムを義務化します ~道路運送車両の保安基準等の改正について~」(令和8年9月30日)
国際連合欧州経済委員会(UNECE)自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)UN規則第182号(眠気警報)・第183号(脇見警報)関連資料
米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)「The Impact of Driver Inattention on Near-Crash/Crash Risk」(DOT HS 810 594、2006年)および Visual-Manual Driver Distraction Guidelines(2013年)

車選びドットコムマガジン編集部

豊富な中古車情報や画像&動画からピッタリのクルマを探せる中古車検索サイト「車選びドットコム」がお送りするマガジンです。
中古車が買いたくなるような、多数のオススメ中古車情報・クルマ雑学・トレンドニュース記事をお届け。あなたの気になる中古車も、これを読めばきっと見つかる!運命の一台に出会うきっかけづくりをお手伝いします。

公式サイト:https://www.kurumaerabi.com/
公式YouTube:https://www.youtube.com/c/kurumaerabicom
公式Twitter:https://twitter.com/kurumaerabicom

車選びドットコムマガジン編集部

ドリキン土屋圭市MC!

チャンネル登録はこちら

もっとみる 車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

カテゴリー

注目タグ

車選びドットコム加盟店募集中 詳しくはこちら

デイリーランキング

2026.10.15UP

最新記事