Aクラスはメルセデス・ベンツブランドで売られる乗用車として最小のモデル。
メルセデス・ベンツの乗用車は従来、エンジン縦置きのFRを基本としていたが、近年では初めてFFレイアウトを用いた乗用車である。
初代および二代目は一般的なセグメント分けではBセグメントに属し、三代目はCセグメントに属する。

■ 初代
初代AクラスはCクラスより下のレンジを受け持つモデルとして1997年に発売、型式はW168。
通常メルセデス・ベンツの型式名の先頭のアルファベットがWのものはセダンを表すが、
背の高いハッチバックボディである初代Aクラスもあくまで新しい形の乗用車としてセダン系の型式が与えられている。
寸法自体はコンパクトであるが、実は最小回転半径自体は上位のCクラスが勝る。
これはCクラスがFRゆえに取ることの出来たメカニズムの恩恵でボディサイズの割に異例に小回り性能が良いためであり、決してAクラスの取り回しが悪いという訳ではない。
Aクラスの美点は3615mmという全長であり、駐車時にはスペースを選ばないシティカーとして適した特徴だ。これは身近な車と比較すると2013年現在のトヨタ・パッソよりも僅かに短い程である。
なお全幅は5ナンバー枠を超えており全高も多くのタワーパーキングでの基準となる1550mmをオーバーしているため立体駐車場では注意が必要だ。

元々Aクラスは燃料電池やバッテリーによる駆動を想定して設計されており、そのためのスペースとしてサンドイッチフロアと呼ばれる二重床構造が採用されている。
そのため乗員が乗る車室の床面は高く、全高の割に室内高はそれほど高くはない。
このサンドイッチ構造はバッテリーを搭載しないからといって無駄になっている訳ではなく、高い床面はこのサイズにしては望外の衝突安全性に貢献している。

トランスミッションはこのクラスでは珍しく5段のATであり、スペースの節約のため平行軸歯車式とされている。ATの耐久性は高くはなく、W168の弱点とされる。

リアシートは（初期型は助手席も）取り外し可能。シートを外せばフラットなフロアからなる大容量のカーゴスペースが生まれる。この特徴を生かし、Aクラスをベースに商用車である「バネオ」が派生している。

日本では1998年にA160を導入、翌年にはA190が追加。
2001年、マイナーチェンジで内外装が変更され、ロングボディが追加された。

○ 発売前の「エルクテスト」
初代Aクラスは発売直前にスウェーデンの自動車雑誌による「エルクテスト」と呼ばれる緊急回避テストで横転したということがニュースになった。
このためメルセデス・ベンツはAクラスを発売延期して改良。トレッドを拡大し足回りを固め、当時としてはまだ珍しかった「ゴーマル（扁平率50%）」のタイヤとESP（電子制御式車両安定装置）を標準装備とした。
その結果、初代Aクラスは乗り心地が固く、「ファミリーカーとして失敗作」と日本の自動車雑誌で評された。
しかし、もとより安全を非常に重視した車を世に出しているメルセデス・ベンツだからこそ話題となった出来事である。
後にこのエルクテストでは、初代Aクラスには実際には通常の装着タイヤよりも細い応急用タイヤを仮に装着してテストしていたという説もある。
これはメルセデス・ベンツが小型車に参入することを恐れた他メーカーの陰謀であったという可能性があるという話だが、真偽の程は不明である。
実際このテストで横転する車はAクラス（の発売前の実際には売られていない仕様）だけではなかったし、現在でもなお多くの背の高い車は横転ないしは安定性を失ってしまう。
ESPは横転対策だけでなく、緊急回避性能そのものも向上させる。むしろ安全を考えるなら「全車ESP標準装備」のAクラスは買いである。

○ 特別なモデル
1998年に作られた「A190 Twin」はメルセデスのF1チームのドライバーであったミカ・ハッキネンとデイビッド・クルサードにプレゼントされた特別なモデルだ。このモデルは同年発売されたA190のPRの意味もあったと言われている。
エンジンは通常の位置の加え、サンドイッチフロアを活用しリアのラゲッジスペース下にも搭載している。二機のエンジンで合計3.8リッター8気筒から250psのパワーと36.7kgmのトルクを発生、最高速は230km/hに達する。車高は100mm落とされコーナーリング性能も向上が図られていた。
当時一般発売は未定とされていたが、結局生産台数は両ドライバーのための二台のみであったと考えられる。この二台のうちミカ・ハッキネンにプレゼントされた一台は後にフィレンツェのMBスポーツのショールームに展示されていたことは知られている。

2003年5月に200台限定で「A210L エボリューション」が発売される。
開発にAMGが関与、2.1リッターエンジンとブレーキにはドリルドベンチレーテッドディスクローターが奢られ、外装はAMGスタイリングパッケージと17インチのAMGアルミホイール、Fフェンダーに「エボリューション」のバッジ、ウエストライン下に赤いピンストライプ、内装ではシートはレザーとアルカンターラのコンビ、リアもセパレートシートとされた。

■ 2代目
2004年、AクラスはW169型としてフルモデルチェンジ。
日本には2005年から「A170」「A170エレガンス」「A200エレガンス」の3グレードで展開。
二重床構造は継承され、基本的なシルエットも踏襲。全体的にキープコンセプトでのモデルチェンジとなった。全長は235mm延長されたが依然として4mを軽く切るサイズで、とてもコンパクトであることには変わりがない。トランスミッションには新開発の7速マニュアルモードつきCVT「AUTOTRONIC」を採用。従来Aクラスの弱点とされていたATを捨て去った。
ボディの拡大と新開発のサスペンションの恩恵もあり安定感は従来と一線を画するものとなった。

派生車種としてBクラスが存在する。

■ 3代目
三代目Aクラスはボディサイズをぐっと拡大、一方で先にモデルチェンジしていたBクラスと共通のプラットフォームを使い、二重床構造を廃止したことで全高は低くなり、Cセグメントハッチバックとして常識的なプロポーションとなった。
客層の若返りを狙った販売戦略が取られ、日本でも「新世紀エヴァンゲリオン」の貞本義行氏が手掛けたアニメ動画でPR作戦が展開された。2013年1月に国内発売開始。

ハイパフォーマンスモデルとしてA45 AMGが設定され、直4 2リッターターボから360psを発生。4WDシステム「4マチック」と組み合わせ「史上最強の2リッター車」となっている。
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